“私が一番苦しんだのは、淹れる前のコーヒーの粉のあの香ばしい香りが、淹れてしまうと失せてしまうことだった。あれこれ、考えられることを色々試したが、一旦淹れてしまうと、コーヒーがまだ粉だった時のあの香ばしさは失われてしまう。
さんざん苦しんで、諦めた時に、ダッチ・コーヒーという水出しコーヒーに出会った。大きなガラスの管にコーヒーの粉を詰め、湯ではなく水を注いで、じっくり何時間もかけてコーヒーを抽出しようと言うものである。その水出しコーヒーを飲んだ時、自分の今まで苦労は何だったのか、と力の抜ける思いをした。コーヒーの粉の時のあの香ばしさがそのま残っているではないか。味もとげとげしさがなくふっくらとしている。
水出しコーヒーはそのまま冷たくても美味しいし、温めても香りは変わらない。自分でコーヒーを淹れる時にコーヒーの粉に熱湯を注ぐことで香りが飛び、味が変質してしまっていたことに、私はその時になってやっと気がついたのだ。
ところで、その水出しコーヒーだが、ダッチ・コーヒーの道具はでかいし高価だ。あのような高価な道具が無くても簡単に水出しコーヒーを作れることを、友人に伝授されたので、読者諸姉諸兄にも教えて上げよう。
必要な道具は、麦茶などを作る時に使うガラスの瓶。何処のご家庭でも、袋入りの麦茶をその瓶に入れて、水を満たして冷蔵庫に入れておく、なんてことをしているでしょう。無かったら買いなさい。たかだか数百円のもののはずだ。必要なのはその瓶だけ。
その瓶に好みの量のコーヒーの粉を入れる。水を注ぐ。それを冷蔵庫に入れて一晩おいておく。翌日、濾紙で濾してカップにとって見ると、おお、なんと言うこと、素晴らしい水出しコーヒーが出来上がっている。
こんなに簡単なのに、仕上がりの味と来たら、ぐうの音も出ない、と言う奴だ。コーヒー好きな方は是非おためし下さいませ。夏なんか特に最高だね。”