自閉スペクトラム症(ASD)と統合失調症における発症メカニズムの重複(オーバーラップ)部分の存在

 名古屋大学は9月12日、自閉スペクトラム症(ASD)と統合失調症における発症メカニズムの重複(オーバーラップ)部分の存在を発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科精神医学の尾崎紀夫教授、同大高等研究院の久島周特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」電子版で公開された。
 ASDと統合失調症は、精神症状による精神医学的な診断基準により、異なる疾患として区別されている。しかしながら最近の疫学研究からは、両疾患の病因・病態はオーバーラップしている可能性が示唆されていた。
 欧米人を対象にした最近の遺伝学研究からも、ASDと統合失調症の両方の発症に関与するゲノムコピー数変異(CNV)が同定されている。一方で、日本人を含む他の民族の研究報告は乏しく、世界的に見ても両疾患でCNVを直接比較した大規模な研究はほとんどなかった。
 研究グループは、ASDと統合失調症の日本人患者および健常者(全体で5,500名以上)を対象に、ゲノム全体でCNVを詳しく解析した。その結果、両疾患の患者の各々約8%で、既知の病的CNVが見つかったという。両疾患に共通する変異も29のゲノム領域で見つかり、リスク変異のオーバーラップが存在することを確認。また、病的CNVをもつ患者の臨床症状の解析から、知的能力障害の合併率が高いという特徴も見出した。
 さらに、個々のCNVデータに基づいて抽出した生物学的な発症メカニズムにおいても、両疾患はオーバーラップすることを確認し、その中には酸化ストレス応答、ゲノム安定性、脂質代謝など、新しく確認されたものも含まれていたという。また、情報科学的な手法を用いて、大規模CNVに含まれる複数遺伝子の中から、病態に関連した遺伝子の候補も同定したという。
 今回の研究によって得られた知見は、ASDと統合失調症のゲノム変異に基づく診断の開発や病態の解明につながり、将来的には新規治療薬の開発に役立つ可能性があると考えられる。一方で、同一の病的CNVから異なる精神疾患が起こるメカニズムは不明であるため、さらに研究を続ける必要がある、と研究グループは述べている。