ADHD 自閉症スペクトラム障害 紹介文章

神経発達症群(神経発達障害群)
しんけいはったつしょうぐん(しんけいはったつしょうがいぐん)
概要
神経発達症群とは、背景に神経系の発達の不具合があると想定されている一群の疾患です。発達の早期、しばしば就学前に明らかとなり、個人的、社会的、学業または職業において期待される機能を発揮しづらくなります。定型的な発達の経過をたどる方々との明確な区別は難しく、誤解が生じやすいのが大きな問題となります。この項では神経発達症群の中でも代表的な注意欠如・多動症と自閉スペクトラム症とを概説します。
正確な診断をするために大切なこと
人間のこころは少なくとも成人に達するまでは発達し続けますが、生まれつきある程度計画通りに発達していく部分と、生まれた後にさまざまな人と交流したり、経験したりすることで発達していく部分が複雑に混ざり合い、お互いに影響しあっています。
そのため、正しく診断するためには今までの発達の歴史について先入観をもたずに分析し、じっくりと患者さんのお話を伺い、その行動を観察することが大切となります。診断をより正確にするためには、患者さん本人やご家族のお話を聞くだけでなく、幼稚園や保育所、小中学校の先生による評価や近隣の方々の印象なども大変役に立ちます。
診断を受けた際に御留意頂くこと
診断をなるべく正確に行うことは、治療や周りの方の対応を最適なものにするために大切なことなのですが、一方で患者さんやご家族は診断名にこだわり過ぎないことがとても大切です。
一度診断がつくと「精神科の病気なんだ。何をやってもしょうがない」と悲観的になってご本人もご家族も努力をしなくなってしまうことがあります。しかし、ここで説明する疾患の多くは「病気か、そうではないか」が白黒はっきりしているものではありません。患者さんやご家族、関係者の方がどのぐらい困っているかを専門家が判断し、治療や介入を最適な形で提供するために診断を行っています。逆に言えば、治療や介入、さらにはこころの成長によって、患者さんをはじめとする誰もが困らない状態になればその診断を外すことになります。
また、困ったことが一つ一つ解決されていくと、例えば「自閉スペクトラム症から注意欠如・多動症」などというように、診断名が変わることも珍しくありません。
注意欠如・多動症(注意欠如・多動性障害、ADHD)
概要
不注意や多動、衝動的あるいは短絡的行動が特徴的な疾患です。生まれつきの特性であり、12歳までにはなんらかの症状があることが普通です。有病率は調査した地域や調査の時期によっても多少ばらつきがありますが、学齢期で3~9%とされています。これはたとえば小中学校のどのクラスにも1~4人はいるという計算になりますが、日本では10年ほど前まであまり問題視されなかったため、治療や介入をすべき対象であるという考えが保護者にも学校関係者にもあまり浸透していません。
周りの大人がその気になれば、保育所や幼稚園、小学校入学後の低学年の段階で気づくことができることが多いのですが、「元気のいいお子さん」などの肯定的な評価を受け、見過ごされていることもあります。不注意が目立ったり、ぼんやり集中できなかったりはするけれど、人にはあまり迷惑をかけないタイプのお子さんは見逃されやすいと言えます。よって、ご家族や担任の先生の客観的にかつ冷静な観察が大切です。
症状・診断
ぼんやりしていて先生の指示を聞いていない、物を落とす、こぼす、理解はしているのにケアレスミスが多くテストの点数が悪い、忘れ物が非常に多い、コツコツ努力するのが極端に苦手などの不注意・集中力のなさからくる症状や、授業中立ち歩きをする、車道に飛び出す、すぐに喧嘩になる、などの衝動性・多動性からくる症状があります。これらの症状がその年齢に不相応で、生活に直接、悪影響を及ぼすほどだと判断されると診断がなされます。診断は、世界保健機関やアメリカ精神医学会によって作成された国際的に認められる診断基準によって行われます。
治療
薬物療法と周りの大人の接し方の工夫との組み合わせが、最も効果があることが明らかになっています。薬物療法として我が国で使用可能なのは塩酸メチルフェニデート(商品名:コンサータ)とアトモキセチン塩酸塩(商品名:ストラテラ)のふたつで、現在、2,3種類の薬剤の治験が進んでいます。これらの薬剤はすべての患者さんに効果があるわけではありませんが、劇的な効果をあげる場合もあり、食欲不振、不眠などの副作用の有無、あるいはその程度を観察しながら、最適な用量まで増量し、年単位で継続することが大切です。周りの大人の対応については、気が散らないように環境を整えることからはじめると良いでしょう。また、しかってもかえって逆効果になることが多いため、患者さんのできることをできる範囲で努力するよう分かりやすく指示し、それを達成したら時間をなるべくおかずに褒めるということが原則です。具体的な手法として「ペアレント・トレーニング」がひろく紹介されております。
自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)
概要
これまで、広汎性発達障害や自閉症、アスペルガー症候群などと細かく分類されてきましたが、2013年に発表されたアメリカ精神医学会による診断基準(DSM-5)で、自閉スペクトラム症としてひとまとめにすることになりました。社会的コミュニケーションの障害と限定され反復的な行動様式が特徴です。
かつて、「自閉症は母親が冷淡に育児をした結果」、という誤った学説がさも事実のように伝えられた不幸な時代がありましたが、現在では自閉症スペクトラム症が両親の育児の失敗によって生じるという説は完全に否定されています。
症状・診断
強いこだわり、かんしゃくがある、雑談に交じることができない、友達がいないなどを患者さん自身が苦痛に思って相談にいらっしゃることもあります。新しい環境、予定外の出来事に対して上手く対応できないことも多いです。場違いの言動によって誤解されたり、いじめの対象になったりすることもあります。
診断は、世界保健機関やアメリカ精神医学会によって作成された国際的に認められる診断基準によって行われますが、上記の注意欠如・多動症でも同じような症状がみられ、診断が難しいことも多いです。お話を聞き、患者さんの行動をよく観察していると、注意欠如・多動症では患者さんにとって不快だったり、面倒だったりすることを我慢できない、何が何でもやりたくないという心の動きが推定できます。一方で、自閉スペクトラム症では、患者さんの頭の中には本人なりに確固としたルールやマニュアル、スケジュール表があり、そこでとりあげられていないこと、その約束事に反することに対して強い抵抗感があることが原因と推定できるため、ある程度は両者を区別することが可能と考えられます。
治療
環境を調整したり、行動パターンを徐々に修正したりといったことが治療の中心となります。先の見通しが良いと安定した生活が送りやすいようです。多くの患者さんは耳からの情報より目から入った情報を処理しやすいため、患者さんにしてほしいこと、ルール、スケジュールなどはなるべく紙に書いて伝えると良いでしょう。言葉による指示が難しい場合は、写真やイラストなどでわかりやすく指示を出します。自閉症及び関連するコミュニケーション障害の子どものための治療と教育(TEACCH)や応用行動分析(ABA)などが専門的な方法として用いられることもあります。誤解を受けることで傷ついてしまった心のケアのために精神療法やカウンセリングも併用することが多いです。補助的に薬物療法を行うこともあります。18歳未満の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性に対してリスペリドン(商品名:リスパダール)とアリピプラゾール(商品名:エビリファイ)の使用が承認されています。
さらに詳しく知りたい方へ
子どもの心の病気がわかる本 / 市川宏伸監修 東京 : 講談社, 2004.10 健康ライブラリー
アスペルガー症候群(高機能自閉症)のすべてがわかる本 / 佐々木正美監修 東京 : 講談社, 2007.3 健康ライブラリー
AD/HDのすべてがわかる本 / 市川 宏伸著 東京 : 講談社, 2006.5 健康ライブラリー
LD(学習障害)のすべてがわかる本 / 上野一彦監修 東京 : 講談社, 2007.4 健康ライブラリー
以上、ご家族や関係者の方が最初に疾患について理解するには最適の入門書です。
アスペルガー子育て200のヒント / ブレンダ ボイド著 東京 : 東京書籍, 2015.2
アスペルガー症候群のお子さんをもつお母さんが書いた子育てのヒント集です。
自閉症を克服する : 行動分析で子どもの人生が変わる / リン・カーン・ケーゲル, クレア・ラゼブニック著 ; 八坂ありさ訳 東京 : 日本放送出版協会, 2005.10
自閉症を克服する<思春期編>―学校生活・恋愛・就職をのりきる方法 / リン・カーン・ケーゲル, クレア・ラゼブニック著 ; 八坂ありさ訳 東京 : NHK出版, 2011.9
応用行動分析の基本から実際の応用まで丁寧にかかれています。
ペアレント・トレーニング : 発達障害の子の育て方がわかる! / 上林靖子監修 東京 : 講談社, 2009.11 健康ライブラリースペシャル ; 健康ライブラリースペシャル
ペアレント・トレーニングについて分かりやすく説明されています。神経発達症をお持ちのお子さんだけでなく、多くのお子さんの子育てのヒントになると考えます。