先日、精神運動抑制という懐かしい言葉が出たので
感想を書く
まず調べてみると
精神運動抑制は,抑うつ気分や意欲の低下などとともに,うつ病の主症状の1つである.思考や決断力などの精神活動が停滞し,会話の減少,思考過程の遅延や緩慢な動作となって現れる.患者は,根気がない,集中できない,決断ができない,億劫や面倒などと訴える.重症になると,口数が極端に減って行動も不活発となり,臥床したまま動かなくなることもあり,うつ病性昏迷と呼ばれる状態になる.
などとあり、一方では、
精神抑制と運動抑制の両方をまとめていう
という説明もある
精神運動興奮
という言葉もあり、
これは精神つまり脳の興奮が原因で激しい運動が見られることを指すようだ
だから
精神つまり脳の働きが弱くなって運動が減少するものを精神運動抑制と呼ぶ場合もあるだろう
買い物に行きたくない、朝起きたくない、食事食べたくない、要するに動きたくない、など
精神運動という言葉が思考や感情と、どこで分けられるかははっきりしない
それぞれの人がそれぞれの考えで言えばいいことなので
何が正しいとも言いにくいし
歴史的に何が正しいとかいうのも文献学みたいなものでつまらない
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私の考えはこんな感じ
うつ病というのは、悲哀、意欲低下、慢性疲労感、不眠・仮眠、食欲不振・過剰、希死念慮などを呈する疾患であるが
原因やメカニズムはいろいろと考えられる
代表的なメカニズムとしては抑圧とエネルギーの枯渇が考えられる。
何も食べませんという場合、まず消化管の疾患がないかを調べて、何も見つからない場合、
大きく分けて、
1.食欲が無い。だから何も食べない。→これはエネルギーの枯渇。
2.食欲はあるのだが、太りたくないので食べない。→抑圧。
などが考えられる。
性的活動の停滞の場合にも、
1.性欲がない。→エネルギーの枯渇。
2.性欲はあるのだが、社会に共有されている倫理により活動しない。→抑圧。
実際の症状としてはもっと複雑であるが、単純化するとこうなる。
サイコ・モーター(精神運動)という言葉がうつ病の根本と関係しているという考えは昔からある
フロイトの頃の水力学モデルとかリビドーモデルとかが関係していると思うが
リビドー低下とサイコ・モーター・リターデーション(精神運動抑制)がだいたい同じ意味だろうと思う
リビドーというと性的エネルギーという意味合いが強い場合もあるし
エネルギーとか精神エネルギーといえば、サイエンスの世界で言うエネルギー
(運動エネルギーとか位置エネルギー)とは違う意味合いのもので、比喩的なものなので、
エネルギーという言葉はふさわしくない
そこでサイコ・モーターが力学モデルとつながりやすいので
いい言葉だということになったのではないだろうか
精神を駆動するモーターということで
そこが故障しているのがサイコ・モーター・リターデーションということで
こう考えてくると、うつ病とほぼ同じ意味内容になる
抑圧型のうつ状態は、うつ病ではなく、フロイト的神経症に分類された
ということなんじゃないかな
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ついでに Vitale Traurigkeit について
英語で vital sadness
日本語で 生気的悲哀 と言われる
つまり、恋人に振られたとか、仕事を首になったとか、激しいけれど一時的な気分変動と
うつ病の場合の持続的で、気分だけではなく身体全体をも巻き込む悲哀は区別しようという
ドイツのシュナイダー先生なんかの教科書に書いてあることだ
最近の外来には、上司にきついことを言われたからもう会社に行けない、
日曜日には元気に遊べるという人が来る
ご本人の考えでは、上司が原因なんだから平日はダメ、会社の近くはダメ、
だも休日は関係ないから元気、
これが上司が原因である証拠だということらしい
そしてこれをうつ病だと考えているらしい
もちろん、上司にいじめられて休みたいという場合は 生気的悲哀 ではない
生気的悲哀 というのは、人間に備わったエネルギー倉庫が空っぽになる感じ
よくある俗流説明で(だから患者さんにはわかりやすくていいのだけれども)
人間のエネルギータンクには、一日タンクと一生タンクがあると説明する。
一日活動して疲れたということは一日タンクが空っぽになったということ、
だから、睡眠をとって、一日タンクを補充すれば
朝には元気になっている
しかし疲労が慢性持続性に続くと一日タンクでは間に合わないので一生タンクからエネルギーを持ち出す
それが続くと一生タンクも空っぽになる
これがうつ病だという説明である
これでいうと、一生タンクが空っぽになっているのが 生気的悲哀で、うつ病ということになる
タンクの比喩にしても 生気的悲哀にしても、フロイト時代からの水力学的な説明であり、
リビドーというエネルギーがどのように消費されているかという話につながる
いずれにしても、平易な実証性を求めるアメリカ精神医学では採用されず
DSMではたとえば「2週間持続すれば」というような項目で補っているようだ
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うつ病、うつ状態の場合、元気がない、エネルギーがないというのは
一見して正しいので、エネルギーでたとえ話をするのも理由があると思う
しかし一方で、生きることには意味がない、いつでも機会があったら死にたい、すべては無意味で、
一切は無である、家族も仮のもので、子育ても義務、楽しいことは何もない、食事もただ食べているだけ、
友人の付き合いは煩わしい、などなど
エネルギーの問題ではなく考え方とか感じ方の問題のような人もいる
この一軍はエネルギー枯渇とも違う印象で、思考回路の問題のように思う
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つまり、サイコモーターリターデーションとかVitaleとか昔の話で、いまはもうDSM一本を共通言語として使ってよいと思われる
病前性格で
1.几帳面か
2.熱中性はあるか
3.他人に気を遣うほうか
くらいは聴いておきたいけれども
病前性格論というのも最近では重視されていないと思う
(本当の性格って、むつかしいですよね。とりあえず初診から5回目くらいで本人が本人をどう考えているかくらいは聞けるけれども。質問も漠然としているし。質問紙でも使って性格を細かく聞くのも好きだし、役に立つと思うけれども、あまり重視されていませんね。)