「治療計画(うつ病性障害):外来診察の実際」

「治療計画(うつ病性障害):外来診察の実際」
外来治療のポイント
1)外来治療の全般的な注意点
まず、初診の面接では時間をかけて病歴をとる。ただし、中病以上の場合は長時間の面接が困難なものも少なくない。このような場合には、病歴の聴取を数回に分けて行うことも考える。
通院感覚は原則として、最初の1ヶ月は週1回の通院感覚が望ましい。2ヶ月目以降は2週間の通院間隔で十分対応できる。特に最初の1ヶ月は患者との信頼関係を気付く上でも重要である。初期にはきめ細かい対応が必要とされる。
 治療の目安としては、標準的に急性期は最低5~8週間を要する。もし、この期間に寛解くが得られた場合には再燃防止のための継続治療を16~⒛週間行う。
病名の告知は行うべきである。単に病名を告げるのではなく、病気の性質を具体的に十分説明し、患者の不安やストレスを軽減することが大切である。
2)治療の目的
 うつ病の治療は心理・社会・生物学的側面から総合的に行う。症例のもつ特性、時期に応じてどの側面からのアプローチに重点を行うかの判断が大切である。
 うつ病の治療の第1の目的はできるだけ早期にうつ病を回復させることである。現在の抗うつ薬はいずれも効果出現までに10日から2週間程度の時間を要する。この間の自殺を防止する必要がある。なので、患者を前にしてまず必要な事は、自殺防止や念慮の存在を確認することである。
 うつ病治療の第2の目的は再発防止である。多くの場合、初発を何度か再発を繰り返してはじめて方針が見えてくることが多い。
 最近では「反応性うつ病」の概念は用いられなくなってきている。しかし、実際の臨床の場においてはストレスや状況因の関わりの大きいものと小さいものが存在するのは誰しもが経験することである。なので、それらがどの程度関与しているか除去可能か等を検討する事は有用である。
 薬物による予防に関しては、最近大きく考え方が変化してきている。最近、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)を始め副作用の少ない抗うつ薬が開発された。これらを長期的に投与することの安全性が確認されるにつれ、抗うつ薬による再燃・再発予防は現実的に行われるようになってきている。
 したがって、今後はうつ病の再発予防はストレス・状況因の除去と薬物療法の2つの観点から検討されるべきである。
「薬物療法を補完する小精神療法と社会復帰療法」
病相期(急性期)の小精神療法7ヶ条
1 医療の対象となってしかるべき状態であって単なる怠慢や一過性の疲労でないことを、本人と家族に告げる。本人が望めば職場の関係者にも告げる。
2 できる範囲で至急に「心理的休息」が取れる体制をつくるよう勧める。
3 「抗うつ薬・抗不安薬の服用」が「心理的休息」とともに治療上いわば車の両輪であることを告げ、生じるかもしれない副作用についても説明をしておく。
4 予想される治癒の時点をあらかじめはっきりと告げる。
5 回復過程に入るととりわけ症状が一進一退のあることを予告し、一喜一憂しないよう求める。
6 治療上、自殺自傷を(観念として持っても)実行に移さないことを誓約してもらう。
7 人生に関係するような大決断(転職や離婚等)を治療終了後まで延期するよう求める。
急性期を脱却したと思われるときの変更点
1 重点を「心理的休息」から「社会復帰」へとシフトする。
2 シフトする時点は、薬物療法により主観的な苦痛な「不安症状」「抑うつ症状」があらかた消え、違和感のない「抑制状態」が中心になったとき。
3 症状の評価は1日1日ではなく「1週間(あるいは2週間)に何日良い日があったか、「何日悪かったか」でみるように勧める。
4 急性期には差し控えていた生活史や家族についての会話を少しはさみ、個人的背景を知ることに努める(万一慢性化したとき、あるいは神経症化したときに備える)。
5 「早すぎる社会復帰」を警戒する。ときには家族や勤務先にもこの点を注意する。
社会復帰に際しての注意点―中年のホワイトカラーを仮想してー
1 できれば職場の上司や同僚に(軽症)うつ病を説明する機会を持ち、彼らが必要以上に病人を警戒しないように、また彼らが自分たちの責任を必要以上に感じすぎないように指導する。
2 特殊な場合(妄想障害など)を除き、原則として元の職場に戻し、必要とあればその後の早い時期の定期人事異動で職場を変わるよう指導する(いきなりの配置転換など特別の処遇は、治療後に十分あり得る当人の能力の発揮を妨げる危険がある)。
3 正式の出勤に先立ち、1、2週間の出勤練習を課する。この間にもし気分動揺が出現すれば正式出勤も延期する。
4 出勤後も2、3ヶ月は「終末期気分動揺」に注意する。
5 「早すぎる服薬中止」を警告する。
6 病気の経過を何らかの形で今後に生かせないか一緒に考える(例えば、自分の経験を他人のために生かし、職場のメンタルヘルスに関係する役目をかって出るなど)。これはうつ病者がしばしば再発サインを「否認」ないし「無視」するのを防ぐ役割もある。
慢性化したときの小精神療法
1 うつ病(気分障害)はいくら長くかかっても原則として回復可能であることを、折に触れて繰り返す。
2 現在どの辺りまで回復し、あとどのくらいの道程が残ると主治医は考えているか、を話す。
3 安易に「慢性化イコール神経症」仮説に組しない。心理的水準(二ボー)の低下はしばしば下位の精神病理を顕現化させるため、神経症化と考えやすい事態がしばしば生じることが、心理的ニボーの上昇を計ることで解決することが少なくない。
4 しかし反面、面接の時間を急性期のときのように「症状」の話だけで費やすことをせず、「生活史や家族史」を努めて話題にし、違った文脈でうつ病をみる見方を導入する(「なぜその時点で病気になったと思うか」など。ただしこれは先にも触れたように安易な心因論に立脚してではない。)
5 しばしばある服薬中毒について、その是非話題にする。
6 家人の心理的疲労を思い、心理的サポートを惜しまない。
7 治療成果の上がらない受持患者への主治医の逆転移(反感、他責)に注意する。安易な神経症化仮説もその一つでありうる。