老年期の心身症

老年期の心身症

ある程度お年を召してからの心身の健康について考えてみましょう。ご本人にとっても、またご家族にとっても、大変切実な問題です。

 

診察室での実際の言葉

お年を召した方ならば、いまご覧になっているコンピューターの文字が小さくて読みにくいと感じる人は少なくないでしょう。見る、聞く、歩く、そんな基本的な面で不自由を感じているのだと皆さんはおっしゃいます。疲れが回復しにくくなります。病気に過敏になります。ひとつだけではなくいろいろな病気になります。そして心も弱気になるでしょう。人によっては頑固になったり、神経質になったりします。寂しがり屋になります。将来に悲観的になる人もいます。友達がだんだん少なくなります。たとえば引っ越したあと新しい友達ができにくいでしょう。病院に行ってくすりを何種類も飲んでいる人もいます。くすりの副作用が出やすいのも特徴です。
他者に依存せざるを得ない場面が多くなります。家族のために生きてきたのに家族は優しくしてくれないと感じることも多いでしょう。病気や不具合をかかえながら生きて行くのは孤独でつらいものです。なぜもっと理解してもらえないのでしょう。若い世代とは考え方・感じ方の違いがあります。たとえば、気に入っていた茶碗なのに、若い家族に「汚いから捨てなさい」と言われてしまいます。これではプライドを保てないでしょう。自分たちは戦争もくぐり抜けてきた世代なのにと思うとしくなります。社会の変化がはやすぎると感じています。またたとえば伴侶に先立たれるつらさは格別です。しかしそれもいつかは訪れることです。
実際に相談場面で聞いた言葉を整理して書いたものですが、つらいですね。

老年期の病気の特徴

お年を召してから病気に悩まれる方が多いのは事実でしょう。若い頃のように簡単には治らなくなるのも仕方のないことです。たとえば、一人の人が白内障、膝と腰の痛み、胃潰瘍、皮膚のかゆみ、ゆううつ、排尿障害、便秘、肩こりなどをかかえながら生きているのがむしろ普通でしょう。また、脳血管障害やアルツハイマーによる認知症の心配も現実のものになってきます。あれこれ考えるととてもゆううつですね。

診断 認知症と心身症の区別

さて、高齢になってふさぎ込んだりしていると、とりあえず認知症ではないかと疑われます。これはとても困ったことですね。認知症ではなくても、認知症に似た物忘れが見られることがあります。仮性認知症とまとめて呼んでいますが、うつ状態、意識障害、栄養障害などでも認知症に似た状態になることがあるのです。認知症ではないのに認知症扱いされたらいやなものでしょう。きちんと鑑別診断したいものです。
お年を召してからは心身症になりやすくなります。それは老年期になると心身の両面で他者や環境に依存せざるを得ないようになることが多いからです。一人でがんばり抜くことは若い頃に比べると難しくなります。そのぶんだけいろいろな点で周囲と妥協しなくてはならなくなります。それはいままでさまざまな困難を切り抜けてきた人にとっては屈辱的とも思えるようです。
いろいろなストレスにさらされますが、それから逃げることもできません。いやだからといって家出することもできません。経済的・体力的に余裕があれば別ですが、そうでない場合には妥協しなくてはいけません。老齢期には特有のストレスがあります。そこで心身症になる人も多いのです。
認知症といわれた人の中には心身症の人も混じっています。老齢期になると体の変調が心の変調に出やすいので、認知症かと誤解されます。

積極的な「心の健康」を

しかし以上のようにお困りの患者さんたちの一方で、とても元気ではつらつとしているお年寄りの方もたくさんいらっしゃいます。社会的役割を引き受け、経験と知恵を生かし、若い人にはできないような活躍をなさっています。こうした方々と接すると、やはり心の持ちようが大切なのだなと実感されます。積極的な心の健康は可能だと思います。
そしてその人たちの場合、悩みを自分だけで悩んでいないようです。あなたの悩みはあなただけがかかえている特殊なものではないかもしれません。そして、似たような悩みを持った誰かが、頭のいい解決方法を考えているかもしれません。
プライバシーを完全に保護できるクリニックで、一度相談してみるのも現代的な方法ではないでしょうか。