翻訳者たちの努力

“世界的名作「不思議の国のアリス」には様々な翻訳バージョンが存在します。そのため作中のダジャレも、翻訳者によって様々なバージョンがあります。ここで、翻訳者たちの努力と閃きを見てみましょう。
「ニセ海ガメ」と「グリフォン」が、アリスに海の中の学校について説明するシーンです。彼らの説明によると、海の学校の授業時間は、1日目は10時間、2日目は9時間、3日目は8時間というように、どんどん減っていくというのです。
アリスが「なんておかしなの!」とあきれると、グリフォンはこう答えます。
〈英文〉
“That’s the reason they’re called lessons,” the Gryphon remarked: “because they lessen from day to day.”
「授業」の“lesson”と、「減る」の“lessen“をかけたダジャレです。このダジャレ、翻訳者たちはどう訳したのでしょうか?
 「一日一日少なくなっていくからね、だから“少”学校と言うんだよ」グリフォンが説明しました。(田中俊夫訳/岩波少年文庫)
 「それがおさらいといわれる理由さ」とグリフォンが口をはさみました。「一日ごとにさらわれてへってくのさ」(生野幸吉訳)
 「だからこそ時限というんだろ」グリフォンがいいました。「毎日、時間が減ずるから時減というわけだ。」(柳瀬尚紀訳/集英社)
 「ちっともへんじゃないよ。毎日、勉強に時間を喰えば、だんだんにへるの、あたり前だろ」(石川澄子訳/東京図書)
 「だから時間割りなのさ。毎日少しずつ割り引かれていくからな」グリフォンが、言葉をはさみます。(立原えりか訳/小学館)
 「だから学校というんだよ。一日一日と、スクナクナル、つづめてスクール、すなわち学校さ」(中山知子訳/岩崎書店・フォア文庫)
 「一日一日と軽くなっていくから、“軽古”っていうんだよ。」(原昌訳/国土社)
 「そりゃお勉強だもの、少しずつおまけしますってわけさ」とグリフォンの説明だ。(矢川澄子訳/新潮社)
どうでしょう?翻訳者によってまったく違ったダジャレになっていますね。”