サラミやソーセージなどの加工肉に含まれている「硝酸塩」と呼ばれる添加物が、躁病の発症に関連している可能性があることが、米ジョンズ・ホプキンス大学小児科学のRobert Yolken氏らによる研究から明らかになった。硝酸塩は細菌の増殖を抑える目的で加工肉に添加されることが多いが、躁病の入院患者では、精神障害がない人と比べて加工肉を食べていた確率が約3.5倍であることが分かった。米国立精神衛生研究所(NIMH)の一部助成を受けて実施されたこの研究の詳細は「Molecular Psychiatry」7月18日オンライン版に発表された。
躁病は一般には、双極性障害患者でみられることが多いが、統合失調感情障害の患者も経験することがある。躁病状態になると妄想的な思考や危険な行動を取るリスクがあるという。
Yolken氏らは今回、進行中のコホート研究に登録された精神障害がある人とない人を含む18~65歳の男女1,101人を対象に、2007年から2017年にかけて人口学的データや健康状態、食事内容に関するデータを分析した。その結果、多動や気分の高揚、不眠といった躁病エピソードが原因で入院した患者では、重度の精神障害の既往歴がない人と比べて、入院前に加工肉を食べていたが、それ以外の肉や魚の食品は食べていなかった確率が3.49倍であることが分かった。
また、Yolken氏らはラットに硝酸塩が添加された加工肉を2日に1回与える 実験も行った。その結果、加工肉を与えたラットでは、通常の餌を与えたラットと比べて、2週間以内に睡眠パターンが乱れ、多動性が高まるなど、躁病に近い行動がみられるようになった。さらに、加工肉を与えたラットと通常の餌を与えたラットでは腸内細菌叢の構成に違いが認められたという。
今回の研究は、加工肉に含まれる硝酸塩が躁病の原因であることを証明したものではない。Yolken氏らも「たまに加工肉を食べる程度であれば、ほとんどの人では躁病エピソードが引き起こされることはないだろう」と話している。ただし、同氏らは、今後さらなる研究でこの関連性について検証する必要があると強調。「研究を重ねれば将来、双極性障害患者や躁病リスクが高い人において躁病エピソードのリスクを低減する食事介入を行えるようになるかもしれない」と期待を寄せている。
今回、ラットの実験を担当した同大学精神科・行動科学のSeva Khambadkone氏は「双極性障害とそれに関連する躁病エピソードの発症や重症度には、遺伝的な脆弱性と環境要因の両方が関与していると考えられており、躁病は複雑な精神状態だ」と説明している。その上で、「われわれの研究では、硝酸塩が添加された加工肉は躁病の発症に環境要因の一つとして関与している可能性が示された」と結論づけている。
なお、同氏らによれば、硝酸塩はこれまでに一部のがんや神経変性疾患と関連する可能性が報告されているという。