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ほぼ閉めっぱなしの部屋でクーラーを付けながら扇風機を回している
その扇風機の羽にホコリが付いて見苦しいので掃除をした
衣類からホコリは出るのだろうが
なにかもっと黒くて粘着性のものも混入している
自動車の排気ガスとかタバコの煙とかそんなものなのだろうか
部屋を密閉しているものの、排気口はいくつもあって、そこから排気し続けているので
その分、どこかから入ってきているのだろう
この粘り気と言うか油気が東京だと思う
電灯のスイッチのプラスチックの四角い面の上のヘリには
やはり黒い何かが積もっているようだ
この空気を自分がいつも吸っているのかと思うと嫌な気分だ
扇風機で思い出すのだが
あれこれ減らず口を叩く女がいた
お門違いな理屈をあれこれ言うので辟易した
しかしそれでも私は家柄がいい、いい教育を受けた、東大卒だと威張っているようだった
ピント外れの浅はかなことを言うのであるが
自分では気が付かない
そのような空論を空論であると実証するのは難しかった
そんなとき新しい扇風機を購入した
部品がいくつかあって組み立て式だった
女はしばらく組み立てようと試みたらしいができなかった
仕事から帰って私が組み立てた
さして難しくないものだった
(それが今使っている扇風機だ)
この一件から、女はひょっとしたら私は愚かなのではないかと気が付き始めたようだった
シャワートイレの取り付けについてもそうだった
女は自分なりに調べたようだったができなかった
私が取り付けを完成させると
それは「実証」の威力を発揮したようだった
空理空論、ファンタジー、文章世界、そんなものは唯一つの実証にかなわない
実証で生活を安定させて、そのうえで、精神世界のこととして理屈を言うのも余裕の一つとしてよいのであるが
実証の精神を忘れたくないものである
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