ストレスと脳の老化

 離婚や家族の死、金銭トラブル、深刻な健康問題といった人生を左右するようなつらい出来事は、ストレスをもたらすだけでは済まないようだ。米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のSean Hatton氏らによる研究から、こうした重大かつネガティブなライフイベントを経験すると脳の老化が加速することが明らかになった。この研究結果は「Neurobiology of Aging」3月8日オンライン版に発表された。

 Hatton氏らは今回、1965~1975年に兵役に就いていた男性359人(平均年齢62歳)を対象に、重大なライフイベントと生物学的な脳年齢との関連について検討した。対象者の約88%は白人で、約80%は前線での戦闘の経験はなかった。

 対象者には5年の間隔を空けて2回の調査を実施し、家族や友人の死、離婚、離別、流産、経済的な問題、深刻な医療上の緊急事態といったライフイベントの経験の有無のほか、生活習慣や社会経済的状況について尋ねた。また、記憶力の検査やアルツハイマー病のリスクに関連する遺伝子の検査、さらに脳のMRI検査を実施し、全ての情報をアルゴリズムに入力して脳年齢を推定した。なお、このアルゴリズムでは脳の老化に影響する可能性がある心疾患リスクやアルコール摂取量、社会経済的状況、民族などの因子を調整して脳年齢が推定された。

 その結果、重大かつネガティブなライフイベントを1回経験するごとに、脳の老化が4カ月早まることが分かった。つまり、「家族の死」と「離婚」の2回のライフイベントを経験すると、脳年齢は8カ月高まることになる。

 この研究は因果関係を証明するものではないが、Hatton氏によると、以前からストレスが多くかかる出来事を経験すると染色体の末端にあるテロメアの短縮が加速することが分かっているという。テロメアは染色体を保護する役割を果たし、加齢に伴い短くなる。

 今回の研究報告を受け、専門家の一人で米ノースカロライナ州立大学チャペルヒル校のDaniel Kaufer氏はストレスが炎症を惹起している可能性を指摘。また、「ストレスフルなライフイベントが起こると、食べられなくなったり、眠れなくなったりする人は少なくない。したがって、ライフイベントそのものではなく、ライフイベントが起こった時のこうしたネガティブな反応が脳に悪影響を与えるのではないか」との見方を示している。

 なお、今回の研究は主に白人男性を対象としたものだったが、Hatton氏は「この研究結果は女性や他の人種にも当てはまる可能性が高い」としている。また、健康的な生活習慣によって、ネガティブなライフイベントによる脳の老化リスクは抑えられるかもしれないとしている。

 Kaufer氏もこれに同意し、「つらい出来事を経験した時の反応には個人差がある。食事などの生活習慣に関連した因子は、脳や身体の反応に長期的な影響を及ぼすと考えられる」と説明。その上で、「精神的な回復力(レジリエンス)を強化することで、ストレスフルな状況でも前向きに対処できるようになる可能性がある。今回の研究結果は、そのような治療的介入についてもヒントを与えてくれた」と話している。

HealthDay News 2018年4月12日