N Engl J Med(2018; 15: 636-644)に「高血圧の初期治療」の総説(Clinical Practice)

 N Engl J Med(2018; 15: 636-644)に「高血圧の初期治療」の総説(Clinical Practice)がありました。うんざりすることに、またまた高血圧の定義が大きく変わってしまいました。世界最新の高血圧の総説です。 この数年、外来で小生は米国の8th Joint National Committee(2014年)のガイドラインを使ってきました。覚える数字は150、140、90の3つで大変便利に思っておりました。
60歳未満では血圧140/90mmHg以下に、糖尿病(DM)と慢性腎不全(CKD)患者も同じ
60歳以上では血圧150/90mmH以下に
 今回、なんと血圧は130/80mmHg以下にすることになってしまいました。60歳以上では、収縮期血圧が20も下げられてしまったのです。
New Engl J Med総説「高血圧の初期診療」最重要点9つは以下の通りです!
高血圧は年齢、DM、CKDの有無にかかわらず130/80mmHg未満にせよ!
130/80~140/90mmHgはStage 1高血圧。心血管疾患リスク計算10%未満は生活改善
運動、減塩、減量、アルコール制限し地中海式食事を。NSAIDは切れ
140/90mmHg以上、心血管疾患、DM、CKD、心血管リスク10%以上は降圧薬開始
血圧測定は坐位、背をもたれ下肢交叉せず足底は床に、5分安静後に
検査はNa、K、Ca、UA、Cr、eGFR、Hb、thyrotropin、脂質、検尿、尿alb/Cr比、EKG
降圧薬はサイアザイド、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARBの4つから選べ
塩分摂取の多い者はサイアザイドを、少ない者はACE、ARB
Ca拮抗薬は追加薬として使用せよ
1.年齢、糖尿病、慢性腎不全にかかわらず130/80mmHg未満にせよ!
 今回、この総説を読んで驚いたのは目標血圧を「130/80mmHg」未満にすることになったことです。年齢、糖尿病、慢性腎不全にかかわらず130/80mmHg以上は高血圧なのです。わずか数年でこうも目まぐるしく変わり、また覚え直さなければいけないのかと思うとうんざりします。
「朝令暮改」と言うと小生、ミッドウェー海戦を思い出します。以前、外来で右肩に金属片が入った老人がいました。一体どうしたのかお聞きしたところなんと、ミッドウェー海戦の生き残りだったのには仰天しました。空母「蒼龍」の通信兵だったというのです。
 昭和17(1942)年6月、日本海軍は、ほぼ全勢力でミッドウェー島を攻略、アメリカ海軍空母部隊をおびき出しての殲滅を図ります。日本側は、空母は赤城、加賀、蒼龍、飛龍の4隻を投入しました。 まず第一次攻撃隊がミッドウェーの飛行場を爆撃します。
  日本側はミッドウェー周辺に米空母がいると考えていました。空母で待機していた第二次攻撃隊は敵空母撃沈のために魚雷を搭載していました。しかし米空母は見当たりませんでした。このため急遽、地上攻撃用の通常爆弾に変更します。
 ところが通常爆弾に変更直後、偵察機から米空母発見の無電が飛び込んできたのです。日本側の位置も米側に察知されている可能性があり、山口少将は、通常爆弾のまま即座の発艦を南雲忠一司令長官に具申します。
 しかし空母を沈めるには通常爆弾では非力で、魚雷の方が効果は絶大です。南雲司令官は再度、爆弾から魚雷への変更を命令します。
 変更作業が終わりかかろうとしたとき、一瞬早く米空母艦載機が日本側に襲いかかったのです。ちょうど、帰還した第一次攻撃隊を収容していた日本軍は、高度5,000mから急降下してきた米軍艦載機に気が付きませんでした。
  この戦いで日本側は空母4隻、航空機300機、多くのベテラン搭乗員を一挙に失い、太平洋戦争のターニングポイントとなったのです。
  刻々と情勢が変化していく中で、いかに最善の選択を行うか? 通常爆弾の威力は低くとも、そのまま即座の発艦を命じるべきだったのです。ミッドウェー海戦は数多くの教訓に満ちています。
  空母「蒼龍」の通信兵の方のお話しによると、米艦載機の空爆の最中にミッドウェー島からの第一次攻撃隊が帰還したのですが、空母に着艦できず次々と海に不時着していくのを呆然と眺めるばかりだったとのことです。
  やがて蒼龍は沈み始め、西伊豆健育会病院の三階屋上くらいの高さから海面に飛び下り駆逐艦に救助されたとのことでした。
  その後、この方は横須賀海軍病院で肩の手術を受けた後、南伊豆にあった湊海軍病院に転院しました。 故郷の土肥(とい)はすぐ近くだったのですが、家族との連絡は一切禁止されました。ミッドウェー敗戦の情報が伏せられたのです。
  調べてみたところ、空母蒼龍は現地時間の昭和17年6月5日午前10時25分、米空母ヨークタウンのドーントレス急降下爆撃機十数機の攻撃を受け爆弾3発が命中しました。やがて19時13分、蒼龍中央部に水柱が上がり大爆発とともに艦尾から沈み718名が戦死しました。 生存者は駆逐艦「磯風」により救出されその後、水上機母艦「千代田」へ移乗し、日本本土へ戻ったとのことです。以前、患者さんに千代田の水兵だったという方がいました。
  RCT(Randomized Control Trial)を重ねるごとに高血圧による死亡率、心血管疾患を減らすための血圧閾値は下がってきました。そしてついに2017年、ACC-AHA(米国心臓病学会/米国心臓協会)は高血圧の定義を130/80mmHg以上としたのです。
 米国で従来の高血圧定義140/90mmHg以上とすると高血圧の罹患率は31.9%です。一方、130/80mmHg以上とすると高血圧罹患率はなんと45.6%にもなってしまいます。人口の半分近くが高血圧なのです。
 しかし、2015年N Engl J Med(2015; 373: 2175-2178)に掲載されたSPRINT(Systolic Blood Pressure Intervention Trial)試験で、収縮期血圧130/180mmHgの9,361人の治療で、血圧140mmHg以下の群に比し120以下の群は心血管疾患のリスクが低かったのです。あまりに差が出たため、このトライアルは3.3年で中止されました。
 というのも、収縮期血圧120mmHg以下群の方が140mmHg以下群よりも、主要複合転帰(primary composite outcome)、すなわち心筋梗塞、急性冠動脈症候群、脳卒中、心不全、心血管疾患死亡のいずれも優れていたのです。〔hazard ratio(HR) 0.73、95%CI 0.60~0.90〕。なお、140mmHg以下群での薬剤数は1.8でしたが120mmHg以下群は2.8種でした。
 こう明らかな根拠を見せられては、ぐうの音も出ません。HR0.73、すなわち27%もこれらの疾患が減ると言うのです。 ただ注意すべきは除外された者のうち、351例は立位1分で低血圧を起こして除外され、また2,284例はpolypharmacy(多数薬剤投与)のため除外されていることです。
 75歳以上で低血圧にすることはかえって危険ではないかと思うのですが、SPRINT試験では75歳以上で血圧120mmHg以下にすることは他の年齢層に比し、低血圧リスク、失神、電解質異常は差がなかったとのことです。
2.130/80~140/90mmHgはStage 1。心血管リスク10%未満は生活改善
 血圧130/80mmHg以上は高血圧ですが、140/90mmHgで高血圧をさらに2つに分けます。130/80~140/90mmHgの間をStage 1高血圧、140/90以上をStage 2高血圧とするのです。
 Stage 1 高血圧(130~139/80~89mmHg)で心血管疾患、糖尿病、慢性腎不全がない場合、2017ACC/AHAガイドラインでは今後10年の心血管疾患リスクの計算を推奨です(外部リンク参照)。
 もし心血管疾患リスクが10%未満なら3~6カ月生活習慣改善を試みよと言うのです。ぜひ、皆様も自分のリスクを計算してみてください。ただし計算に総コレステロール(T-cho)、HDL-C、LDL-Cの検査値が必要です。 小生、最近は脂質の採血はTG、HDL-C、LDL-CだけでT-choなんて入れていませんでした。小生の血圧は131/88mmHg、今後10年の心血管疾患リスクは11.4%でした。
3.運動、減塩、減量、アルコールを制限し地中海式食事を。NSAIDは切れ
  高血圧につながる生活習慣因子は、食塩摂取過剰、体重増加、肥満、アルコール摂取、NSAIDやdecongestants(鼻粘膜充血解除薬、商品名:プリビナ、コールタイジン、トラマゾリン)使用などです。遺伝因子(polygenic)もあります。妊娠中高血圧は将来の高血圧、心血管イベントにつながります。
  減塩は食事中Naを1.5g/日(NaCl 3.81g)以下にします。米国では食塩摂取を”NaCl”でなく”Na”で表わします。 なぜこんな変な表記をするんだろうといつも不思議に思います。  
 食塩(g)=Na(mg) × 2.54 /1000 です。
  肥満であれば減量します。有酸素運動(aerobic exercise)を90~150分/週、 すなわち13~21分/日行います。1日13~21分なんて、その程度で良いのかい、と意外に思います。通勤で歩けばこのくらいは可能です。
 アルコールは男性2drinks(ビール350mL 2本、ワイン300mL、ウイスキー90mL)以下、女性は1drink(ビール350mL、ワイン150mL、ウイスキー45mL)以下とします。 なおアルコール1drinkとは純アルコール換算で14gに相当する飲酒量のことです。男性はビール350mLを2本飲んでいいなんてちょっとうれしい。
  またK(カリウム)の多い食事を取ります。野菜、果物、海藻、大豆などです。以上の方法で収縮期血圧 3~8mmHg、拡張期血圧 1~4mmHg低下します。
  またDASH dietによりBP 11.4/5.5mmHg低下します。これは1995年ごろ、DASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension) studyで使われた食事で「果物、野菜が豊富で低脂肪乳製品」を取る食事のことです。これに減塩を加えるとさらに有効なのです。このDASH dietは地中海式食事と類似点が多いのです。
  地中海式食事のポイントは次の3点です。
果物、野菜、低脂肪乳製品、玄米、全粒粉(茶色のパン)、鶏肉、魚、豆類、ナッツ、オリーブ油を取れ
赤い肉(red meat:牛肉、豚肉)、バター、ラード、菓子、砂糖入り飲料を減らせ!
赤ワインを1、2杯(白ワインではない)
「高血圧の食事」の詳細は西伊豆健育会病院のHPをご覧ください(外部リンク参照)。 下記の総説では、砂糖入り飲料には重税を課すべきだと主張していました。小生の朝食はバターの代わりにオリーブ油を茶色のパンに付けております。
 薬では、NSAID、decongestants、アンフェタミンを減らします。高血圧でNSAID中止は考えたことがなかったなあと小生反省です。 禁煙は無論当たり前です。座業(sedentary work)を減らします。
4.140/90mmHg以上、心血管疾患、DM、CKD、心血管リスク10%以上は降圧薬開始
 Stage 2 高血圧(140/90mmHg以上)、または既に心血管疾患、糖尿病、慢性腎不全が存在する場合、または今後10年の心血管リスク10%以上の場合、生活習慣改善に加え降圧薬の開始を推奨します。全ての高血圧患者は130/80mmHg未満にすることを推奨です。
5.血圧測定は、坐位、背をもたれ下肢は交叉せず足底を床に、5分安静後に
 血圧の測定方法は意外にうるさく、ガイドラインでは2回以上の場で2回以上の血圧測定を推奨です。カフ(マンシェット)は正しいサイズでなければなりません。ネットで調べてみたところ、幅の狭いマンシェットを使うと血圧は高めに出ます。逆に、大人用マンシェットで子供の血圧を測ると低めに出ます。
 マンシェットの幅はおよそ上腕の直径が適するようです。下肢血圧測定では、大腿直径より20%幅の広いものを使います。JIS規格では成人(上腕用)14cm、成人(下肢用)18cm、小児では、生後3カ月未満は3cm、3カ月~3歳未満5cm、3~6歳未満7cm、6~9歳未満9cm、9歳以上12cmだそうです。小児のマンシェットの幅が年齢によりこんなに細かく分かれていたとは、少しも知りませんでした。
 血圧測定時は背もたれにもたれ下肢は交叉せず足底を床に着け、腕はテーブルで心臓の高さに置き5分間安静にしてから測定します。小生、外来では入室と同時に測っていましたが、しばらく話をしてからの方が良さそうだと思いました。
 血圧測定はaneroid (液体を用いないという意味) sphyngomanometer、つまり丸い計器に針が回転する血圧計か、最近は自動血圧計です。そう言えば水銀血圧計は、当西伊豆健育会病院では、コンパートメント症候群のときの筋内圧測定用に1台だけ残して処分してしまいました。
 マンシェットを着けたら、ナースは白衣高血圧を避けるため部屋から出よとのことです。
  仮面高血圧(masked hypertension)は、クリニックでは正常なのに家では上がっているものを言います。 大動脈縮窄症否定には大腿血圧を測定します。大動脈縮窄(coarctation of aorta)なんて小生考えたことなかったなあと思いました。
 また老人の起立性低血圧の否定には立位血圧を測定します。
 肥満とともに徐々に血圧が上昇し、家族歴もあるのがprimary hypertension(一次性高血圧)だそうです。一方、重症または抵抗性高血圧で末期臓器障害やその他の症状があるのは二次性高血圧です。
6.検査はNa、K、Ca、UA、Cr、eGFR、Hb、thyrotropin、脂質、検尿、尿alb/Cr比、EKG
 理学所見は心臓、血管、末期臓器障害のチェックが必要です。特に心血管疾患、糖尿病、腎不全の有無は重要です。採血はNa、K、Ca、UA、Cr、eGFR、Hb、thyrotropin、脂質、検尿、EKGを取ります。
  糖尿病や腎不全がありはっきりした蛋白尿がないときは、尿alb/Cr比をチェックします。つまり随時尿で尿中アルブミン濃度と尿中クレアチニン濃度を同時測定しその比を取るのです。
 糖尿病腎症では、アルブミンは分子量が小さいので大きな蛋白より早く尿中に出るため、早期に腎症を検出できます。 この正常値は30.0mg/g・Cr未満で、糖尿病腎症の早期診断基準は30~299mg/g・Crのときです。
7.降圧薬はサイアザイド、Ca拮抗薬、ACE拮抗薬、ARB拮抗薬の4つから選べ
 高血圧の降圧薬使用は、サイアザイド系利尿薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARBの4つから選択します。いずれも心血管イベントを減らします。
  ALLHAT(Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial、JAMA2002)研究では、心血管リスクの高い4万人をクロルタリドン(サイアザイド系利尿薬、商品名:ハイグロトン、国内発売中止)、アムロジピン(Ca拮抗薬)、リシノプリル(ACE拮抗薬、商品名:ロンゲス、ゼストリル)、ドキサゾシン(α拮抗薬、商品名:カルデナリン)で降圧しました。
 ところがドキサゾシンは心不全の発生が多く途中で中止されました。一方クロルタリドンはアムロジピンより心不全イベントが少なく、リシノプリルに比しても心血管イベント、脳卒中、心不全が少なかったのです。
 ALLHATでは、Ca拮抗薬に対して利尿薬は、心不全の発症率が有意に低く、またACE阻害薬に対しても、脳卒中・心不全・狭心症発症率において有意に低いという結果だったのです。古くからあるサイアザイド系利尿薬が、新タイプの降圧薬2剤をしのぐこの結果は予想外だったのです。
8.塩分摂取の多い者はサイアザイド、少ない者はACE、ARB
 この総説で推奨しているサイアザイド系利尿薬は次の3つで、国内で使われているトリクロルメチアジド (商品名:フルイトラン)は入っていませんでした。本当はALLHATで効果が実証されたクロルタリドンを使用したいところなのですが、国内では販売中止になってしまいましたので、当院ではインダパミド(商品名:ナトリックス)を使用しております。
【推奨サイアザイド系利尿薬】
・クロルタリドン(国内販売中止)
・ヒドロクロロチアジド
・インダパミド
 へーと思ったのは、塩分摂取の多い者はサイアザイド系利尿薬の方が効果は大きいそうです。ということは普通の日本人ならサイアザイドから始めた方が良いということでしょうか。
  塩分摂取の少ない者はレニン・アンジオテンシン系(ACE、ARB)の方が効果があるそうです。
  なお65歳以上、特に女性または最初から低Naがあるような患者は、サイアザイド系利尿薬開始後1~2週でNa濃度をチェックせよとのことです。もし低Naが起こる場合は他の降圧薬に変更します。 後に利尿薬を必要とする場合は、long acting loop diuretic アゾセミド(商品名:ダイアート) とします。eGFR30mL/分/1.73m2未満のときもループ利尿薬を使用します。
  ACE阻害薬は効果的で副作用も少ないのですが20%くらいまでで咳が出ます。血管浮腫はまれですが黒人では白人に比し3~4倍の頻度で起こります。黒人で3.9例/1,000人、白人で0.8例/1,000人だそうです。血管浮腫が起こった場合はARBに変更します。 ACEとARBは併用してはなりません。ALLHAT研究によると黒人ではサイアザイドやCa拮抗薬の方がACE阻害薬より有効だそうです。
9.Ca拮抗薬は追加薬として使用せよ
 Ca拮抗薬はジヒドロピリジン系(商品名:ニフェジピン、アムロジピン)では浮腫、非ジヒドロピリジン系〔ベラパミル(商品名:ワソラン)、ジルチアゼム(商品名:ヘルベッサー)〕では便秘を起こすので、これらは追加薬として使用するのが良いそうです。Ca拮抗薬は追加薬です。
 高血圧患者で心筋梗塞後の心不全、不整脈、片頭痛にはβ遮断薬を、慢性腎不全でアルブミン尿のある患者ではACE阻害薬、ARBを選択し、進行すれば腎臓内科に相談します。
 へーと思ったのは、最近のメタ解析で2種類の降圧薬で少なくとも一方は低用量を使用すると、高用量単剤に比べ効果が同等で副作用は少ないそうです。Polypharmacyを避けるために小生、極力単剤を使用してきたのですが、これは意外でした。合剤の使用はpolypharmacyで薬剤数を減らすには良いのですが、まず単剤で副作用がないことを確認してから、合剤を使用する方が良いだろうとのことです。合剤で副作用が出ると2種類とも中止しなければならなくなるからです。
 標準治療群と強化治療群の比較でQOLに差はないとのことです。しかし問題は錠剤数が増えるにつれadherence(内服遵守)が悪くなることです。 内服遵守率(adherence rate)は1剤で79%、2剤で69%、3剤で65%、4剤で51%だそうです。4剤も出すと半数の患者は内服していないというのです! 当西伊豆健育会病院では極力、コア薬のみの処方としております。
 まとめますと結局、高血圧治療は、生活習慣改善と極力少数の降圧薬を投与することに尽きます。外来では血圧測定し、電解質変化、腎機能に注意して薬を調整します。また家庭血圧測定を推奨します。ただし、これで血圧コントロールが改善するかは分かりません。
 この総説には冒頭症例があります。さて、皆様ならどうする?
【症例】
 56歳女性、職場健診(job-site screening)で高血圧指摘。 過去5年で9.1kg体重増加、Naproxen(ナイキサン100mg/錠)を毎日220mg内服、毎日1~2 alcoholic drinks (1 alcoholic drinkは350mL缶ビール1本かワイン150mL、またはウイスキー45mL)。両親とも50歳代で高血圧があった。坐位血圧162/94mmHg、立位血圧150/96mmHg。BMI 29、腹部肥満ありbruit、腫瘍なし。 Na 138、K 3.8、Ca 9.4、BG 105、Cr 0.8、尿検査正常。
この患者の評価、治療、あなたならどうする? 著者の解答は次の通りです。
【回答】
 この女性は高血圧の家族歴があり肥満、NSAID使用などのライフスタイル因子もありおそらく一次性高血圧と思われる。アルコールが毎日1drink(純アルコール14gに相当)以上と多い。
 彼女はStage 2高血圧なので、単剤の降圧薬治療を開始し、減量し脂質にも気を配る。 最初の降圧薬として利尿薬かACE阻害薬が合理的であり3、4週後に血圧、電解質をフォローする。定期的に受診し薬用量の調節を行う。 血圧が130/80mmHg未満になれば6カ月ごとのフォローとする。
それではN Engl J Med「高血圧の初期診療」総説最重要点9点の怒涛の反復です。
高血圧は年齢、DM、CKDの有無にかかわらず130/80mmHg未満にせよ!
130/80~140/90mmHgはStage 1高血圧。心血管疾患リスク計算10%未満は生活改善
運動、減塩、減量、アルコール制限し地中海式食事を。NSAIDは切れ
140/90mmHg以上、心血管疾患、DM、CKD、心血管リスク10%以上は降圧薬開始
血圧測定は坐位、背をもたれ下肢交叉せず足底は床に、5分安静後に
検査はNa、K、Ca、UA、Cr、eGFR、Hb、thyrotropin、脂質、検尿、尿alb/Cr比、EKG
降圧薬はサイアザイド、Ca拮抗薬、ACE拮抗薬、ARBの4つから選べ
塩分摂取の多い者はサイアザイドを、少ない者はACE、ARB
Ca拮抗薬は追加薬として使用せよ