黄視症

“ものが黄色く見えるのは「黄視症」といい,色視症の一種であり,大切な原因の1つに薬物の副作用があります.この患者さんは心房細動でジギタリスを処方されており,この副作用を疑ってコンサルトしました.後にわかったことですが,やはり血液中のジギタリス濃度は高値であり,内服を中止することによって色覚異常もなくなったそうです.
ご存知のように,ジギタリスはNa-K ATPaseを阻害し,細胞内にNaを蓄積させ,結果的にNa-Ca交換が止まり,細胞内Ca濃度が上昇して強心作用を示します.生理学の復習ですが,網膜には視細胞があり,桿体細胞と色覚に関係する錐体細胞に分けられます.錐体細胞は,R錐体,G錐体,B錐体の3種類があり,それぞれR(赤),G(緑),B(青)を感じます.光が来ないときは暗電流(Naの流れ)が発生し脱分極しているのですが,光が来るとその流れが止まり,色を感じるようになります.ジギタリスはNaの流れ,つまり暗電流を止めて視細胞の機能不全をもたらしてしまいます.R錐体,G錐体は比較的薬物の影響を受けやすいため,赤色と緑色の色相が知覚されにくくなり,その反動でものが黄色く見えてしまうといわれています1).
ゴッホの作品には黄色が多く用いられ,本来緑であるはずの草木なども黄色く描いていますが,これはゴッホはてんかんがあり,当時はジギタリスがてんかんに対して処方されていたため,この副作用のせいではないか,と主張する学者がいます2).ほかにも,有名なものでは,バイアグラの内服後にものが青く見える「青視症」というのもあるそうです.インターネットで調べると,バイアグラの錠剤に色をつける色素のためだというデタラメの説明をしているものがありましたが,cGMPを介する錐体細胞の働きの異常が原因であることが推測できます.”