親と突然死別した子どもにおける悲嘆の過程 Trajectories of Grief in Suddenly Bereaved Children 遺児の半数は親との死別後1年以内に悲嘆の作業(喪の作業)を終えるが、残りの半数は葛藤をかかえ、10%の子どもが3年以内に悲嘆から回復できない。 米国では子どもの20人に1人が18歳以下で親との死別を経験している。Melhemらによる本論文は、ピッツバーグにおいて慎重に実施された一般住民を対象とする縦断的研究の報告であり、自殺、不慮の事故による死亡、あるいは予

親と突然死別した子どもにおける悲嘆の過程
Trajectories of Grief in Suddenly Bereaved Children
遺児の半数は親との死別後1年以内に悲嘆の作業(喪の作業)を終えるが、残りの半数は葛藤をかかえ、10%の子どもが3年以内に悲嘆から回復できない。
米国では子どもの20人に1人が18歳以下で親との死別を経験している。Melhemらによる本論文は、ピッツバーグにおいて慎重に実施された一般住民を対象とする縦断的研究の報告であり、自殺、不慮の事故による死亡、あるいは予期せぬ自然死で親と死別した子ども183人(年齢7~18歳)について調査が行われた。
研究者らは死別から9、21、33ヵ月後に面接を実施し、悲嘆の重症度とその経時的な変化に基づき3種類の悲嘆反応を特定した。グループ1(n=107)では9ヵ月後のInventory of Complicated Grief(ICG)スコアがもっとも低く、経時的に有意に低下した。グループ2(n=56)ではICGスコアが他2群の中間にあり、経時的な低下は緩徐であった。グループ3(n=19)ではICGスコアがもっとも高く、経時的な変化がみられなかった。グループ1に比べ、グループ2と3では死別後3年間におけるうつ病の発症率および若年発症率、何らかの機能障害発現の頻度がおよそ3倍高かった。グループ2と3に分類される予測因子としては、親の死因が不慮の事故であることや、親との死別9ヵ月後に子どもみずからがうつ状態を訴える場合が挙げられた。グループ3への分類に関する予測因子としては、さらにうつ病の既往、9ヵ月後の何らかの機能障害、外傷後ストレス障害(PTSD)の発症が挙げられた。生存している片親のICG重症度および複雑性悲嘆は、子どものうつ病発症の予測因子となった。
コメント
本研究では以下の注目すべき知見が示された:(1)多くの子どもは親との死別から1年経過しても深い悲嘆の状態にある。(2)重度の悲嘆はうつ病の発症リスクを上昇させる。(3)生存している片親の悲嘆が回復していないと子どもの悲嘆の回復を妨げる。本調査は純然たる疫学調査であるとはいえないが、大規模集団調査では得られない臨床的示唆に富んだ結果を提示しており、親の自殺および事故死は人口統計学的にピッツバーグの一般集団と同様であった。臨床医は、親と死別した小児患者のうつ病発症予防の為に、未回復の悲嘆に積極的に取り組む必要があり、子どもの悲嘆回復のためにも、生存している片親にも治療導入を促すべきである。