神経ストレスが胃がんの進行を加速させるメカニズム

胃がんの発育と神経ストレスの関連について解析
東京大学は12月16日、胃がんの発育と神経ストレスの密接な関連と、そのメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学医学部附属病院消化器内科の早河翼助教、小池和彦教授らが、米国コロンビア大学などと共同で行ったもの。同研究成果は、米学術誌「Cancer Cell」オンライン版に同日付けで発表されている。
ヘリコバクターピロリ菌感染者の減少により、胃がん患者数は減少傾向にあるものの、欧米諸国に比べて日本は依然として圧倒的多数の胃がん症例を有している。進行胃がんは抗がん剤や放射線の治療が効かないことが多く、5年生存率は20%に満たないのが現状。同じ消化管がんでも多くの新しい薬剤が開発され効果を発揮している大腸がんと対照的に、胃がんにはこうした薬剤の奏功率はそれほど高くない。そのため、胃がんには別の治療標的を持ったアプローチが必要と考えられている。
胃がん細胞のまわりに存在する腫瘍微小環境が、がん細胞の増殖や生存を助けていることが、薬剤が胃がんに効きにくい一因と考えられている。腫瘍微小環境には免疫細胞のみならず、線維芽細胞や血管内皮細胞など多数の細胞が存在するが、研究グループは神経細胞に着目。研究を重ね、これまでに神経シグナルが胃がんの発症に重要であることを明らかにしていたが、その詳細なメカニズムはわかっておらず、またこれらの手法は身体への負担や危険性が大きいことから、治療応用の実現には至っていなかった。
神経成長因子を、胃がんの新たな治療標的に
今回、同研究グループは、マウスの胃がん組織を詳しく観察し、胃がんが進行する過程で、がん細胞が「神経成長因子」と呼ばれるホルモンを産生し、これに反応した神経細胞ががん組織に集まり、強いストレス刺激を受けることで胃がんの成長が加速していくことを世界で初めて明らかにした。また、この「神経成長因子」を抑える薬や、神経ストレスを放出する細胞を除去することで、胃がんの進行を抑えることができたという。
神経ストレスが胃がんに与える影響はこれまで詳しくわかっていなかったが、今回神経細胞とがん細胞が相互作用を持ちながらがんを形成していく過程が詳細に明らかになった。この相互作用を抑えることが、新しい胃がん治療として有効な可能性がある。
がん細胞の増殖を直接抑える従来の抗がん剤に加えて、神経細胞との相互作用を抑える薬剤により、胃がん治療の効果を高めることができると考えられる。神経成長因子を標的にした薬剤はすでに臨床試験や実際の臨床でさまざまな疾患に使用されていることから、胃がんに対しても早期の臨床応用が期待される、と同研究グループは述べている。