認知症

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認知症を起こす病気はいくつもあります.最も多いのはアルツハイマー病です.そこで現在,アルツハイマー病の早期診断のための大規模研究:J-ADNIが進められています.

 

アルツハイマー病 

 物忘れ,日時や場所がわからなくなる,といった症状が徐々に進行する病気で,認知症の原因疾患の半分以上を占めています.20世紀初頭にアルツハイマー博士が発見したのでこのように呼ばれます.進行はゆっくりですが,中には数年で高度の認知症になってしまう方もいます.多くの方が老年期に発病しますが,初老期に発病する場合もあります.側頭葉,頭頂葉から,前頭葉,後頭葉へと脳萎縮が広がってゆきます.脳にアミロイドβたんぱく質とタウたんぱく質という2つのたんぱく質が異常に蓄積することが原因と考えられています.脳を顕微鏡で観察すると,アミロイドβたんぱく質は「老人斑」,タウたんぱく質は「神経原線維変化」という構造をとって蓄積しています.加齢に伴う自然な物忘れと,アルツハイマー病の初期症状との区別は大変難しいので,現在,早期診断の方法を見出すための研究(ADNI)が,本邦を含め,世界規模で進められています.脳でアセチルコリンという物質が減少しますので,脳のアセチルコリンを増加させる薬剤を治療薬として使用します.またアミロイドβたんぱく質の異常蓄積を防ぐ(あるいは減少させる)薬剤の開発が進んでいます.

 

レビー小体型認知症 

 認知症としてはアルツハイマー病に似た症状を示すことが多いですが,幻覚(特に幻視)や妄想が強いという特徴があります.また,パーキンソン病と同じように四肢や頸部が固くなって運動障害を起こしたり,自律神経の障害を起こしたりもします.パーキンソン病を長期間(数年~十数年)患っていた方がレビー小体型認知症になることもしばしばあります.「レビー小体」とは,もともとパーキンソン病の特徴と考えられていた,神経細胞の中にできる小さな塊のことで,α-シヌクレインというたんぱく質が異常になって蓄積したものです.レビー小体が,脳幹と呼ばれる部位に限局してできるとパーキンソン病に,大脳にもできるとレビー小体型認知症になります.また大部分の方が,多少ともアルツハイマー病と同じ病変を合併しています.アルツハイマー病と同じように脳のアセチルコリンを増加させる薬剤で治療するとともに,運動障害に対してパーキンソン病と同じ治療を行います.

 

前頭側頭葉変性症 

 2つの異なる病気が含まれています.ひとつはタウたんぱく質が神経細胞の中で「ピック球」という構造をとって蓄積する病気(ピック病),もうひとつはTDP-43というたんぱく質が蓄積する病気(ユビキチン陽性封入体を伴う前頭側頭葉変性症:FTLD-Uと略します)です.どちらも脳の萎縮は前頭葉と側頭葉に強く,アルツハイマー病との比較では,物忘れよりも,自発性や関心の低下,言語障害,行動の変化などが目立ちます.頻度は認知症全体の数%ですが,初老期発症の認知症の中では10%以上の割合を占めると考えられています.

 

神経原線維変化型老年認知症

 アルツハイマー病はアミロイドβたんぱく質(老人斑)とタウたんぱく質(神経原線維変化)の両方が蓄積しますが,神経原線維変化だけ蓄積するのがこの病気です.頻度は認知症全体の数%ですが,高齢者になるほど割合が高まり,90歳以上で発病する認知症は20%がこの病気であると考えられています.もの忘れが症状の中心で,非常にゆっくり進行することが多いとされています.

 

嗜銀顆粒性認知症

 嗜銀顆粒とはタウたんぱく質の異常蓄積の一種で,アルツハイマー病や神経原線維変化型認知症にもしばしば出現します.しかし,それらの疾患がないのにもかかわらず,嗜銀顆粒だけがたくさんできて認知症を引き起こす場合が知られています.

 

脳血管性認知症 

 脳血管障害が原因で認知症を発症した場合,脳血管性認知症と呼びます.原因となる脳血管障害のタイプは複数あり,大小の脳梗塞が多発する場合,脳梗塞に至るほどではない軽い脳の血液循環不全が長く続いた場合,脳出血に伴う場合など様々です.また,軽いアルツハイマー病に脳血管障害が合併して認知症の症状が強く出ることもあります.従来,日本では脳血管性認知症が多いとされていましたが,厳密な意味で,脳血管障害だけが原因で認知症を起こしている方は,以前の統計調査で言われていたよりも少ないと考えられています.

 

その他の病気による認知症

 上記のほかに,ひとつひとつの病気の頻度は低いですが,進行性核上性麻痺,皮質基底核変性症,クロイツフェルト・ヤコブ病など様々な病気によって認知症が起こります.

  また,認知症と同じような症状を起こすことがあるけれど,適切な治療によって回復する可能性がある病気がいくつもあります.たとえば,慢性硬膜下血腫,正常圧水頭症,脳腫瘍,高齢期のうつ病,甲状腺機能低下症やビタミンB欠乏症などの代謝・栄養疾患,などです.認知症の診断をする時にいろいろな検査をするのは,これらの,治療法が全く異なる病気ではないかどうかを調べる,という意味もあります.