職場で部下に対してこんな愚痴をこぼす上司を見たことはありませんか。
「社会人としての自覚が足りない」
「仕事というものをバカにしている」
「覇気がない」
「自主性がない」
「常識が足りない」
毎年、新入社員が入社する職場で、「最近の若者はこまったもんだ」と、あきれた顔をしたおじさんたちの姿が目に浮かびます。どれも言いたくなる気持ちはわかりますが、部下をこのように見ている限り、おそらくその部下の態度や姿勢を改善を促すことはできないでしょう。
生まれながらにしてリーダーシップを兼ね備えた人は、ごくまれにいるかもしれません。しかし、組織の中で必要に迫られて管理職になっている人の方が多いというのが現状だと思います。「役割が人を作る」といいますが、そうならなかった例も散見します。現に上司の悪口を言いながらお酒を飲む人は多いですよね(笑)
管理職になるには、自分で自分の仕事をこなすことができる能力にプラスして、部下や職場の仕事全体を管理する「マネジメント」の能力が必要です。天才的に野球のうまい人が、名将と呼ばれるようなすばらしい監督になれるかというと、必ずしもそうではないですよね。どうやら、人を導く、動かす、成長させるためには、特別な技能が必要なのです。
これまで子育てという場面の中で、「行動分析」という手法を用いて気をつけるべきことなどを解説してきました。この行動分析は、管理職が部下をマネジメントするためにもいかせるのです。すでにアメリカの多くの企業で用いられて実績をあげています。
行動分析を用いて部下のマネジメントを行うには、まず部下の行動を観察して分析することが大前提となります。
◎ポイント1:改善して欲しい場面を特定する
行動をいかに客観的に記述するか、がポイントです。最初の例に戻りましょう。
「社会人としての自覚が足りない」
これは、誰のどんな場面でのどんな行動のことを指しているのでしょう。改善して欲しい行動を客観的に、正確に書くなら、例えば
「大量にコピーをしていてコピー機を『占領』している新人がいる。上司である自分が2枚のコピーをとりたくて、そばに待っている。それなのに、『お先にどうぞ』と声をかけてこない」
あるいは、
「仕事中に手を休めて、プライベートな話ばかりしている」
「会社に来客があり、上司をはじめ、多くの職員がその客にあいさつしているのに、パソコンに向かったままで見向きもしない」
といった感じで書き出すとよいでしょう。
実際には、部下に「こうなってほしい」と思った時に、ここまで細かく場面で区切って具体的な行動を示し、「こう改善して欲しい」と切り出すことは難しいでしょう。こちら側の期待が高かったり、時には怒りすぎたりして、特定の行動だけではなく、その人の全人格を否定することになってしまいがちだからです。
こうした気持ちを抑えて、冷静に場面を切り出すのです。あれもこれもと、改善して欲しい点は多いでしょう。そもそも、特定の行動ではなく、心構えや生活態度といった根本的な問題を改善して欲しいという場合もあるでしょう。
一つ一つの行動を教えていくことはこちらも根気のいる作業ですが、確実に改善が期待できる堅実な方法です。
また、そもそものなんのためにその行動をするのか、という基本的な考え方や目的について知っているのか?理解できているのか?納得できているのか?わざわざ説明しなければいけない場合もあるでしょう。
それではひとつ練習です。
冒頭の例で出てきた「自主性がない」とは、具体的にどんな場面のどんな行動なんでしょうか。
「~がない」という形で表される行動ほど、場面や行動の特定が難しくなるのです。
「会議中に、指名されても『特にありません』と答えるだけで、下を向いている」
ということなのか
「上司である自分が指示した仕事はこなすが、それ以上に仕事を発展させたり、スキルアップしたりしようとしている様子が見られない」
なのか
「営業先で、マニュアル通りの説明はできるが、顧客と人間関係を築こうという会話や表情、そぶりはなく、淡々と事務的な会話に終始している」
といった感じに具体的に示さないといけません。
具体的に示すのがもっと難しいのは、「覇気がない」です。
こういう印象を上司が持つ場合、おそらく部下はいくつもの場面において似たような覇気のなさを漂わせているのでしょう。そうなると、「いつ、どこで」と場面を特定するのは難しくなりますが、こんな風に例示していくといいでしょう。
「朝、職場で同僚にあいさつする声が低く小さい」
「顧客へ電話するときの声が低く、聞き取りにくい」
「メールの返事が遅い」