自称「精子バンク」、60サイト以上 性交渉も選択肢
2017年3月26日朝日
他人の精子を使った人工授精を手がける医療機関が減る一方、ネット上には「精子バンク」などと称して精子の提供を掲げるサイトが、活動休止中も含めて60以上存在する。多くは「無償」や「ボランティア」とし、個人で運営している。精液を入れた市販の注射筒を渡して、女性が自分で注入する方法のみのサイトがある一方、性交渉を選択肢とするところもある。
精子提供で人工授精、施設減少 ネットでは個人やりとり
都内に住む20代後半の女性は「無償の精子バンク」を運営する男性の提供で、長女(1)を生んだ。胸に抱いた長女を見つめて「そっくりでしょ」と笑う。スマホには、長女によく似たまゆ毛の男性の写真が映っていた。「男性への恐怖心や嫌悪感」で結婚はしたくなかったが、子どもは欲しかった。医療施設ではAIDを受けられないため、ネットで提供者を探した。
複数のサイト運営者と面会し、4人目の男性に「こちらの気持ちをくみとってくれている」と感じた。1年近くにわたり月1、2回、注射筒をもらって、自分で人工授精を十数回繰り返した。うまくいかず、妊娠の確率を上げようと性交渉した結果、妊娠したという。「後悔は何もない。この子の質問には答えていきたい」と話す。
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少子化や晩婚化が進むなか、カップルの6~10組に1組が悩みを抱えているとされる不妊。治療には多額の費用がかかり、深まらない周囲の理解に苦しむ人も少なくない。社会は不妊とどう向き合っていけばいいのか。
2013年 33万円
2014年 257万円
2015年 135万円
関東北部で暮らす37歳の女性は自らつけてきた記録の表を見つめ、深いため息をついた。生活に重くのしかかる不妊症の治療費。6年ほど前から体外受精と顕微授精を10回繰り返してきたが、子どもはできていない。「こんなにお金を使っているんだ」。ときどき、怖くなる。
妊娠しても流産を繰り返す「不育症」。体外受精、顕微授精は1回に30万~80万円かかる。保険は適用されず、1回で最大15万円が助成される国の当時の制度を利用したが、とても足りない。2年前からは、大阪市内の診療所に2~3カ月に1回通う。「最先端の技術と設備」があるという評判を聞いたからだ。
この6年で500万円以上を費やした。一方で、会社勤めの夫(38)の年収は手取り約300万円。独身のころのお互いの貯金を取り崩したり、夫の両親に資金を融通してもらったり……。女性は2カ月に1回の割合で行っていた美容院を4カ月に1回に。夫は読みたい本を買わず、立ち読みで済ます。「もし子どもができても、育てるお金がないね」。ふと、夫がつぶやいた言葉に胸がうずく。