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『料理の鉄人』は指定の食材で料理を競い合うフジテレビ系で放送されていた番組である。最高の調理人もまた「料理の鉄人」と呼んだ。多数が挑んでも勝利し続けるほど強いからだ。
しかし、小林カツ代は鉄人より強かった。1994年、阪神大震災が起きる前年のこと。この勝負に、およそ日本で料理に関心ある人たちが圧倒された。56歳の彼女が料理研究ではっきりと日本の頂点に立った瞬間だった。
なぜカツ代式の肉じゃががおいしいのか。作ってみたら納得する。しっかりと火が通ったジャガイモは、口にするとほっくりとほぐれる。それでいて味はしっかりと付いている。この状態はどのように形成されるのだろうか。
カツ代は仕組みについては説明していない。だが、野菜は60度程度で茹でる時間が長いと、細胞壁や細胞間隔に含まれるペクチンによって硬化し、その後水温が上がっても硬化は比較的に維持される。弱火で煮れば、崩れにくい。だが、ほっくりもしない。肉じゃがのジャガイモは固くても崩れきってもおいしくはない。
理想の肉じゃがは適度にほっくりとほぐれていなくてはならないし、おかずとしてしっかり味もついていなくてはならない。その理想を想定し、最適な調理加熱がなんであるかを決めなくてはならない。
小林カツ代はそこを研究しつくして簡素なレシピにまとめたのである。より完成されたレシピでは、フライパンを使い、強火5分でジャガイモを返し、さらに強火5分で煮て汁が干上がったのち、さらに5分蒸らす。この蒸らしによって肉じゃがはさらにおいしく仕上がる。
「料理の鉄人」の番組でも、調理時間の前半で肉じゃがをささっと作っていたため、アナウンサーが冷めるのではないかと聞いていた。彼女は余裕の笑みで、このほうが味がしみてよいと言っていた。
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