国会答弁の重みを、稲田防衛相は理解していないのではないか。閣僚としての責任が厳しく問われる事態だ。
国有地売却問題で揺れる「森友学園」の代理人弁護士を、稲田氏が務めたかどうか。
一昨日の参院予算委員会で、稲田氏は「裁判を行ったことはない」と言い切っていた。
ところが、学園が2004年に起こした民事訴訟で、稲田氏が原告側代理人弁護士として出廷したことを示す大阪地裁の記録が見つかったと報道された。
すると稲田氏はきのう自らの出廷を認めたうえで、答弁を訂正し、謝罪した。
森友学園の理事長を退任する意向を示した籠池(かごいけ)泰典氏が、稲田氏夫妻がかつて「私の顧問弁護士だった」と語ったことについても、きのうになって一転、「夫が顧問弁護士契約を結んでいた」と認めた。
基本的な事実関係について、事実に反する国会答弁を繰り返していたことになる。
耳を疑うのは稲田氏の記者会見での釈明だ。「私は本当に自分の記憶に基づいて答弁をしている。従って私の記憶に基づいた答弁であって、虚偽の答弁をしたという認識はない」
こんな言い訳が通るなら、都合の悪い事実を隠したり、ごまかしたりしたことが後に明らかになっても、「記憶に基づいた答弁だった」と言えば済むことになりはしないか。
閣僚の国会答弁は歴史として後世に残る。不明確な点があれば答弁を保留し、事実を確認したうえで答弁すべきだ。
南スーダンの国連平和維持活動(PKO)をめぐっても、稲田氏の答弁は信頼性を欠いた。
陸上自衛隊部隊が派遣されている首都ジュバでの昨年7月の大規模な戦闘を「衝突」と言い張った。なぜ「戦闘」と認めないのかを問われると、「憲法9条上の問題になる言葉は使うべきではない」と答えた。
自衛隊派遣の正当性を主張したい政権の思惑に合わせるため、現実をねじ曲げた答弁だ。本末転倒もはなはだしい。
稲田氏と籠池氏の主張の矛盾は他にもある。
たとえば、籠池氏は稲田氏と「2年か1年前に業界の筋の会合でお目にかかって直接話した」としているが、稲田氏は籠池氏とは「ここ10年来、全く会っていない」と語っている。
正しいのはどちらか。やはり籠池氏の国会招致が不可欠だ。
国防を預かる稲田氏の答弁の信頼性そのものが揺らぐ、深刻な事態である。任命権者の安倍首相の対応も問われている。