森友24

森友学園へのタダ同然の国有地払い下げ問題は、世論の7割以上が籠池泰典理事長らの国会招致を求めている。それなのに、与党の自公が断固として首をタテに振らない。7日も自民党と民進党の国会対策委員長が会談したが、自民は「民間人の招致は慎重でなければいけない」と拒絶した。
 耐震偽装の姉歯事件など、過去に民間人が参考人招致された例はいくつもある。今回はなぜそこまで、かたくななのか。籠池理事長にブチまけられたら、安倍政権にとって困る話があるのだろうと考えるのが自然だし、多くの国民はそう思っている。森友学園の異様な愛国教育がクローズアップされていることも、政権にとって都合が悪いのだろうと国民はうすうす感づいている。
 この問題、当初、大メディアの報道は控えめだった。ことの発端は、森友が新設を進める“安倍晋三小学校”の用地の払い下げ価格が伏せられていたことで、疑問を抱いた地元の豊中市議が国を提訴。この事実を朝日新聞が報じると、財務省は慌てて売却価格を公表したのだが、8億円ものディスカウントが明らかになり、国会で野党が追及したことから、複数の新聞・テレビがニュースにするようになった。
「それでも、政権への遠慮があるのか報道の腰は重かった。しかし、国有地のゴミ撤去費用などについて話し合われている時期に安倍首相が大阪入りしていたり、その前日に安倍首相が官邸で財務省の理財局長と会っていた事実が分かると、疑惑が膨らんだ。決定打は森友学園の教育方針です。幼稚園児に教育勅語を暗唱させたり、運動会で『安倍首相がんばれ』『安保法制、国会通過よかったです』と言わせている映像が出てきた。それを一部テレビ局が流し始めると、他も後追い。各社が独自映像を競って探すようになった。ついには、視聴率が取れると、ワイドショーまで扱うようになったのです」(テレビ局関係者)
■安倍政権の目指す教育のおぞましさ
 園児のあのおぞましい映像がなければ、ここまでの大騒ぎにはならなかった。安倍小学校は、今でこそ大阪府が「不認可」を下す可能性が高まっているが、問題になっていなければ間違いなく来月開校していたし、安倍昭恵夫人は名誉校長に納まり、しっかり“広告塔”の役割を果たしていたことだろう。
 政治評論家の本澤二郎氏が言う。
「この問題は1人の地元市議が国有地の売買に疑念を抱いたことがきっかけでしたが、よくぞ掘り起こしてくれたと思いますよ。森友学園の籠池理事長は日本会議の大阪幹部ですが、日本会議は数年前から憲法改正の署名運動を全国で行い、安倍政権の進める路線と連動しています。森友学園で行われている教育勅語の暗唱も、日本会議が推進してきたことです。幼児が教育勅語を暗唱したり、天皇の写真にお辞儀をする映像が出てきて、一般国民はびっくりしたと思いますが、『これが安倍政権が目指す教育なのか』と、背筋が寒くなった人は少なくないでしょう」
 それでなくとも、日本会議の思想と一致する「愛国心」を育てる教育は加速している。まず、第1次安倍政権で改正された教育基本法に盛り込まれ、さらには自民党が「家庭教育支援法案」の今国会提出を目指しているのだ。
 法案は、国が家庭教育支援の基本方針を定め、地域住民に国や自治体の施策への協力を求めるというのが柱。国を挙げて国家に従順な子どもを育てようということかと空恐ろしくなるのだが、こうした法案が当たり前のように検討されているのが今の自民党である。森友問題がハジけなければ、不気味な洗脳教育は他の学校にも広がる可能性があった。安倍応援団の日本会議もますます運動を活発化させ、政権への影響力を強めていったことだろう。
 つまり森友疑惑は、この国で進行する右傾化の奔流の中の、氷山の一角に過ぎないのである。  安倍首相の2つの顔に国民は騙されてきた
 過去を振り返れば、自民党内には、安倍の専売特許のように見える“戦後レジームからの脱却”を目指す勢力が少なからずいた。1985年には「国家秘密法案」(スパイ防止法案)が議員立法で出されたものの廃案となった。まだ戦前戦中派が現役として数多く残っていたことやメディアの猛反対があったからだが、自民党内からハト派が減っていくにつれ、永田町の風景は様変わりしていく。
 99年には通信傍受法が成立。国旗国歌法も制定された。2003~05年にかけては、共謀罪法案が3度も提案された(廃案)。06年に安倍が政権に就くと、教育基本法を改正。防衛庁を省に格上げした。憲法改正を見据えて国民投票法もつくられた。
 そして、12年末に安倍が再登板。13年には、28年前のゾンビが蘇り、特定秘密保護法が成立した。14年には集団的自衛権の行使容認を閣議決定。15年は安保法。16年は改正通信傍受法で傍受対象を広げた。17年の今年はいよいよ共謀罪だ。「テロ等準備罪」と見せかけの衣替えをして、4度目の国会提案となる。
 こうして年を追って見ていくとよく分かる。一連の法整備や法改正は、安倍に代表される自民党内ウルトラ右翼の悲願である憲法改正へのステップであり、アナクロ国家主義を標榜する戦前復古への動きなのである。国民主権と基本的人権を尊重する平和憲法をなきものにしようとする蠢きなのである。すべてはつながっている。
 これぞ今、この国で起きている現実だ。国民はアベノミクスや地球儀俯瞰外交といったスローガンに騙されてきたのだ。
■戦争と治安はコインの裏表
 九大名誉教授の斎藤文男氏(憲法)がこう言う。
「安倍首相は『日本を取り戻す』というフレーズに代表されるような戦前回帰の国家主義的な顔と国際貢献や国際協調を押し出す外交の顔との両面を持ち、巧みに使い分けてきた。どちらかというと第2次政権では、国家主義的な顔を隠してきましたが、今回の森友学園の問題でそれを表に出されてしまい、困っているというのが現状ではないでしょうか。もっとも、国際協調もあくまで大義。『積極的平和主義』の名の下、実際は、憲法9条の解釈改憲や軍事予算を拡大してきた。安倍首相がこの間やってきたことは、『準戦時体制』づくりですよ。自衛隊の海外派兵を可能にし、秘密保護法や、まもなく国会に提案される共謀罪など、さまざまな法整備で治安を強化する方向に動いています。戦争と治安はコインの裏表の関係。そうやってじわじわと、戦後民主主義の破壊を進めていると言えます」
 前出の本澤二郎氏もこう言う。
「安倍首相や日本会議の野望は、この国を戦前の軍国主義体制に戻すことです。そうした野望を果たすために実行してきたのは法整備だけではありません。NHKに籾井会長を送り込み、公共放送を政府の広報機関に仕立て上げた。高市総務相が放送法を盾に民放にプレッシャーを与えた。こうした言論の封じ込めも野望達成に向けた一環なのです」
 森友問題に関して、いまも連日、新たなニュースが報じられている。学園の虚偽申請や認可の是非、ゴミの埋め戻しなど疑惑は尽きないし、国会が率先して徹底解明に動くべきだが、国民は、その背景に戦前回帰の流れがあることを忘れてはならない。

2017-03-10 02:25