トランプ氏が発するのは、資本は動いてもいいが雇用は動いてはダメだというメッセージです。単に金儲けすればいいという発想は卒業し、これからは『雇用を守れ』ということです
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工場の自動化は日進月歩だ。「ハングリーな労働者」を売りにしてきた中国ですら、工場経営者はロボット投入に意欲的だ。ロボットなら24時間365日稼働し、何万個、何十万個の数をもこなす。工場経営者がコスト削減を求めて生産地をさまよう時代は終わり、「立地を選ばずどこでもものが作れる」――そんな時代の到来すら予感させるものだ。
他方、このロボットを米製造業が自国に投入すれば、それこそ雇用が失われる。自動化と雇用は相容れる関係になりそうもない。
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仮に、米国に製造業を戻すにしても経営者がメリットを感じなければ回帰はできない。その判断の拠り所となるのがサプライチェーンの構築であり、技術者の確保だ。移民反対の立場を取れば技術者の移動も不可能となる。ましてや、部品のグローバル調達が常識となる中で「経済の相互依存」に背を向けようとする現政権は、早晩、その矛盾にぶち当たるだろう。
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その一方で、工場立地は政策で簡単にコントロールすることは困難だ。日本の地方都市では、工場の海外移転で空洞化した土地に、自治体がインセンティブをつけて工場誘致しても、更地のままの土地はなかなか減らない。ましてや「トランプの一声」で「右向け右」をさせるにも限界があるというものだ。
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?「ラストベルトができたのは日本との競争に敗れた部分もありますが、本質的には米国がサービス業に向かう中で、従来型の製造会社を自ら潰してしまったにすぎません」
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近年メキシコの自動車生産が増加しているがその背景には「人が育ってきている」という側面もある。「人材育成」の課題は無視できず、「高年白人の雇用」に主眼を置くトランプ政権が、どこまで本腰入れて育成に取り組むのかはまだ見えてこない。
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かつて中国は「世界の工場」として一世を風靡した時代があり、世界の企業は大挙してここに進出した。ところが昨今は状況が一転し、中国から日本に工場を戻す動きが続いている。設備投資や人材確保に時間と資金を要する工場だが、国内回帰に振れた理由は何なのだろうか。
産業の立地に詳しい、一般財団法人日本立地センター主任研究員の久保亨氏は、中国からの日本回帰について次のように語る。
?「賃金の上昇などコスト以上に、日本企業は『日本で生産するメリット』を見出したと言えるでしょう。中国の場合は政治や制度上の問題は否めません。工場経営は適材適所であり、さまざまな点を総合的に判断しながら、立地したり戻ったりを繰り返す流動性の高いものだと言えます」
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70~80年代、ピッツバーグは工業から商業への大胆な構造転換への道を選択する。製鉄所の跡地には高層ビルやショッピングセンターが建設され、ウォーターフロントには住宅が立ち並ぶようになった。その一方で1970年代からの10年間で15万人が失業した。