“ 食事をすると体温が上がることからも分かるように、食物を消化するにはエネルギーが必要だ。だが『火の賜物』によればヒトの代謝率の増加分は最大で二五%に過ぎない。なお魚は一三六%、ヘビでは六八七%だという。
ヒトが他の種よりも抜きん出て消化にエネルギーを使っていないのは、料理したものを食べているからである。加熱された澱粉はゲル化し、より吸収されやすくなる。
料理によってヒトは食料からより大きなエネルギーを摂取できるようになり、エネルギー摂取そのもの、すなわち「消化」に費やしていたエネルギーを、脳の発達など、別のことに回せるようになった。ヒトの基礎代謝率が他の霊長類と変わらないのに、燃費の悪い脳を支えることを可能にしている秘密は、料理にあるのだという。
料理によって消化に要する時間だけでなく食事に要する時間も短くなり、違うことができるようになって生態学的にも優位に立った。そして体は料理に適応した。
おそらく二〇〇万年前、火を手に入れて料理するようになったときからヒトは他の種とは違う道を歩むようになった。変化は、社会や生活史にも及んだ。料理された食物は価値が高い。だが料理は社会的な営みであり時間もかかる。しかしながら料理された食事に適応したヒトは、食物を得るために経済や家庭、そして共同体社会を必要としたのではないかと著者は推測している。”