欧州にテロ脅威再び 独トラック突入、防げず

欧州にテロ脅威再び 独トラック突入、防げず
【ベルリン=赤川省吾】欧州で再びテロへの懸念が広がっている。ドイツの首都ベルリンで19日、大型トラックがクリスマス市に突っ込み、12人が死亡した。社会不安は選挙ラッシュを控えた欧州政治を左右する恐れがある。多くの人が集まる繁華街など「ソフトターゲット」が繰り返し狙われる欧州。その教訓を生かし切れない実態も浮き彫りになった。
トラックが突入した現場で、追悼のろうそくをささげる人々(20日、ベルリン)=ロイター
 メルケル首相は20日、テロとの見方を示し、警察当局も「トラックは意図的に人混みに向かった」とツイッターで発表。車両はドイツ国境近くに本拠を置くポーランドの運送会社から盗まれたとの情報がある。
 デメジエール内相は容疑者としてパキスタン出身の男を拘束したと明らかにした。だが男は容疑を否認しており、「真犯人は逃走中の可能性もある」との情報も伝わる。警察当局は20日の記者会見で「運転手だったのか確証がない」と語った。
 事件の背景はなお不透明で、欧州社会に底知れぬ不安が広がる。ドイツには2015年だけで100万人超の難民が殺到した。仮に難民として入国した人物が犯人なら、難民に対する視線は一段と厳しさを増すだろう。
 南仏ニースでは今年7月、花火の見物客に大型トラックが突っ込み80人超が死亡した。ドイツのクリスマス市がテロの標的になるのではないかとの危惧はかねてあった。
 なぜ教訓を生かせなかったのか。
 民間施設など「ソフトターゲット」は警備が難しい。クリスマス市は大小合わせ、ベルリンだけで約80カ所もあるとされる。大規模なものは警察車両が配備され、ある程度の治安対策は講じられていた。だが数が多く、交通をすべて遮断し、手荷物検査を実施するといった措置は取りにくい。
 欧州では家族が一緒にクリスマスを過ごす伝統があり、それを大きく制限することは政治的に言い出しにくい。独政府は20日、国内各地のクリスマス市の営業継続を認めることを決めた。
 欧州はこれから選挙ラッシュを迎える。来秋に連邦議会(下院)選挙があるドイツでは、難民排斥を訴える民族主義政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に追い風が吹く。ペトリ党首は「もはやドイツは安全ではない」と表明。不安をあおり、票を集める戦略だ。
 一方、寛容な難民政策を掲げてきた与党は難しい対応を迫られる。民意が「安定」を求め与党への期待が高まる可能性もあるが、治安を守れていないとして支持率が急落する恐れもある。欧州に広がる衝撃は、フランス大統領選、オランダ議会選など各国の有権者の動向に影響を与えそうだ。(日経)