すき焼きでおなじみ薄切り肉。実は、ヨーロッパでは「あり得ないもの」と認識されている。

端的に知ることが出来るのは、すき焼きでおなじみ薄切り肉。実は、ヨーロッパでは「あり得ないもの」と認識されている。技術がないはずはない。薄切りハム、ベーコン、ローストビーフなどは普通に売られているし普通に食べられている。にもかかわらず肉屋に頼んでもなかなか売ってくれなかったという。ある外国在住の日本人の知り合いから聞いた話だが、昔、肉屋に薄切りを頼もうとしたら「味が全部抜けてしまうからダメだ」と言われたそうな。彼らの信条にかかわるようなことらしい。
なるほど考えてみれば、煮込みによってうま味を凝縮し、あるいは煮汁ごと食べる文化圏においては、肉のうま味が飛んでしまいやすい薄切りは御法度であろう。じゃあ何故ハムやベーコンが薄く切って良いのかというと、あれらはうま味が濃縮されているのだ。ベーコンから出る出汁で美味しいスープが作れるし、そういうレシピも豊富にある。そもそもベーコンは薄切りもあるが、角切りも多い。
一方日本人は何故気にしないかというと、こういう時のうま味はダシとして鰹や昆布で別途取るからだ。中華の炒め物も、各種炒め物ソースがある。こういう状況では、固くなりやすい長時間の煮込みよりも火の通りやすい、食べやすい薄切りが好まれるのは当然とも言えよう。