映画『ヒバクシャ 世界の終わりに』

鎌仲ひとみ監督映画『ヒバクシャ 世界の終わりに』2003年では、戦慄を覚えるようなシーンが登場する。アメリカ最大の核施設であるプルトニウム製造工場があるハンフォードは、原爆を製造したときから何十年もの間、放射性物質が環境にばらまかれ、放射性ヨウ素131を、気象観測用の風船をつかってばらまく実験まで行われていた。風下に広がる広大な農村地域の人々は被ばくした。反対運動を続ける住民トム・ベイリーが、鎌仲監督を車に乗せ、ハンフォードの“死の一マイル”と呼ばれる地域を案内するシーンでは、一家全員がガン、奇形児を出産後に自殺、甲状腺機能障害……。延々と続くトムの説明に鎌仲監督も絶句する。一マイル四方に住む28家族ほとんどの家族の女性は甲状腺障害があり、みなが流産を経験していた。
不健康なものは、植民地の日本に売りつけるのが米国の流儀である。
 ハンフォード・サイト東側の風下地区は1950年代政府の灌漑整備によって育まれたアメリカ有数の穀倉地帯であり、生産作物の殆ど輸出に回される。ウェルチの葡萄ジュース、林檎はアメリカ一番の産地である。りんご、じゃがいも、小麦、コーン、牧草、蕎麦麦など 大部分をファーストフード産業と日本商社が買い付ける。ハンフォード地区の農民たちは、自分たちが世界を養っていると自負している。
鎌仲ひとみ「死の一マイル」から 
 ハンフォード風下地区で行われたことを、トムは「農民をモルモットにした人体実験」として捉えている。彼の家を起点とした一マイル四方の地域を「死の一マイル」と名付けた。ほとんどの女性が甲状腺障害を患い、流産が多発し、障害を持って生まれた子供が何人もいる。一つの家族に複数の癌患者が発生した。これらの人々は、アメリカ全土から集まってきた様々な人種から構成された地域住民であり、遺伝的な繋がりは全くなかった。
一九五四年、ハンフォードから放射性ヨウ素131を乗せた気象観測用の気球が飛ばされ、風下にこの放射性物質をばらまいた。放射性物質は人体の特定の部位に集中して蓄積される性質があり、放射性ヨウ素は甲状腺に集中する。
私がインタビューしたケリーという農民は地元出身の妻の八人姉妹全員が甲状腺障害があると語った。彼が飼っていた犬がいつも白血病で早死にをしたし、彼自身の子供は二人ともものすごく疲れやすい体質だという。
ワインバーガー婦人の娘は両眼がない子供を出産した。 彼女は丘の上に通っていた女子学生の多くが婦人科系の病気を患って、死ぬ者もいたと語った。彼女のもう一人の娘、リンダは腎臓の摘出手術を受け、甲状腺障害がある。
 放射能汚染された土地に住み、そこで採れる作物を食べていた農民たちに起きていたのは食物連鎖による微量放射性物質の生体濃縮だった。 植物や動物の体内に日々取り入れられた放射性物質は蓄積し、数百万倍にも濃縮されることが知られている。どの農家も牛を飼って、ミルクを絞っていた。
 ハンフォードの風下地区は政府の灌漑整備によってアメリカ有数の穀倉地帯となった.あらゆる作物がここで生産され、もっぱら輸出される。りんご、じゃがいも、小麦、コーン、牧草、蕎麦などだ。その大部分を買っているのはファーストフード産業と日本の商社である。(引用者:苦笑) ハンフォード地区の農民たちは、自分たちが世界を養っていると自負している。
 その農地に一本の鉄条網が引かれている.その手前と向こうで危険と安全が分けられていた。汚染されているという向こう側の土地は、一九五〇年代、通常の四五〇倍の放射線が検出されている。一方、政府によって安全という「お墨付き」を得た手前側の土地では、巨大な灌漑システムで絶えず水がまかれ穀物が作られている。アメリカ政府が安全と判断した根拠は、もちろん体外被曝の許容線量を基準にしたものであり、放射性物質が体内に入ってから先は考慮に入れられていない。かくして汚染作物は世界を巡り続けてきたし、今もそうだ。
事実が明るみに出た時、トムは政府に放射能汚染による健康被害の疑問を投げかけた。とたんに地域住民は彼を村八分にし、銀行は融資を止めた。一農民が政府を批判するとは何事かというのだ。政府は機密書類によって明るみに出た汚染の事実は認めたが、病気との因果関係は否定し、補償がほしければ裁判でこい、と言った。 ・・・  p128-130
アメリカの原発ドキュメンタリーTV
 1980~1990年代にかけてアメリカの原発周辺には3階建の箱型建売住宅が低価格で販売され、30歳代の夫婦(妊娠中や幼児のいる家庭)たちが周辺に原発があることを知らされずに購入し、幼い子供たちは原発を背に公園のブランコに乗っていた。その後、子どもに放射能の影響が生じ、子どものいる家庭や妊娠中のお腹の子どもを持つ家族などは訴訟を起こしたり、原発反対デモをしたり、結局、子どもの放射能への影響を恐れ、家を売却しようとするのですが、原発が近くに家があるため売却できず、住宅ローンを払いながら、引越先のアパートの家賃を払う貧困生活という悲惨なものでした。
 買い手には原発が周辺にある事も知らされておらず、おまけにその周辺にはモンサントの広大な農地があるアメリカが抱える原発とモンサントの社会問題を取り上げた番組でした。原発の周辺やハンフォードの核施設の周辺はモンサント所有農地で、じゃがいもはモンサントからマクドナルドの工場へ運ばれていきます。
 2013年2月23日ワシントン州ハンフォード核施設で高レベルの放射性廃棄物漏れがありました。アメリカの高レベル放射性廃棄物の2/3は、ハンフォード コロンビア川沿い586平方マイルの敷地に格納され、地下に封じ込めた廃棄物のタンクの合計は177個、そのうち149個がシングルシェル(砲弾)タンクです。タンクは、第二次世界大戦、国の高レベル廃棄物、核兵器、材料など、戦後からの廃棄物が含まれています。