Kindle Unlimited

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Amazonの定額電子書籍読み放題サービス、Kindle Unlimitedが、8月2日より日本でも始まり、楽天も雑誌の読み放題サービス「楽天マガジン」のサービスを開始しました。そこで、これらに先立つ既存の「読み放題サービス」についてちょっと思っているところを書いてみたいと思います。
音楽や動画では常識化してきているサブスクリプション型サービス
近年、動画や音楽の世界では、定額で見放題、聴き放題型のサービス――サブスクリプション契約型のコンテンツ提供サービスが一般化してきています。
動画配信では今は日本における事業では日本テレビの傘下となったHuluを皮切りに普及が進み、現在はアメリカ最大手のNetFlixに勢いがあります。今テレビを購入するとリモコンの目立つ場所にNetFlixのボタンが配置されているという話もあり、もうこれは完全に一般化したと見ていいでしょう※1。ちなみにこれは従来の放送と通信のバランスを崩すかなり大きな動きです。
一方、音楽の世界でも聴き放題サービスが続々と登場してきています。海外で大きな勢いがあり、近々日本上陸も噂されるSpotify、アジアに拠点を置き、日本を含むアジアの楽曲に強いKKBOX、LINEのサービスとして登場し、かなりの注目を集めたLINE MUSIC、3500万曲という膨大なラインナップを誇るGoogle Play Music、AppleのサービスということでiTunesを始めとした従来のシステムに統合された形で提供されるApple Musicなど、こちらも既に飽和状態と言ってよいかと思います。
Amazonもまた、Amazon有料会員(プライム会員)への統合サービスという形で、サブスクリプション型のAmazonプライム・ビデオやPrime Musicの提供を日本でもKindle Unlimitedに先行する形で始めています。
まだ課題の残るビジネスモデル
 
ただ、こうしたネット経由のサブスクリプション型コンテンツ提供サービスはまだまだ黎明期ということもあり、さまざまな課題も浮かび上がってきています。
Apple Musicの3ヶ月間無料キャンペーンでキャンペーン期間中にアーティストへの楽曲利用料支払いが行われないという方針に抗議して、米国のビッグアーティスト、テイラー・スウィフトがApple Musicから楽曲を引き上げると表明し、Appleが即座に方針を変えて支払うことになったという一幕が過去にありましたが、新しいビジネスモデルだけにこういった権利者と事業者の駆け引きは当分付いて回りそうです。
また、LINE MUSICが有料期間に移行した途端に利用者数が激減したなどという話もあり、事業者側にしてみればそれはもちろんタダでサービスを展開し続けられるワケがないのですが、利用者視点としてはラジオやYoutubeの代替と見ているとすれば話がわからなくもありません。また、次から次へと聴き放題サービスがサービスインし、一定期間無料で聞けるキャンペーンを行っていますから、サービスを次々に乗り換えればかなりの間無料で音楽を楽しめるのも確かです。
いずれにせよこれは利用者側に「常識」的なものがまだ形成されていない新しいサービスだからこそ起きている現象だとは言えそうです。
電子雑誌にサブスクリプションを根付かせた「dマガジン」
 
では、本題である出版でのサブスクリプションサービスはどうでしょうか。すぐに思い浮かぶ成功例は、電子雑誌市場でのdマガジンの成功です。これはこれまでほぼ不毛の地だった電子雑誌の世界にサブスクリプションを持ち込むことで、紙に比べて売り上げが大きいとは言えないまでも計算できる一定の売り上げが見込めるものにしたという点でとても評価できるサービスです。
おそらくはNTTドコモのサービスとしてスマホの契約者を取り込むところからスタートし、ゼロからのスタートではないという立ち位置が良かったのだろうなと思っていますが、出版社にしてみれば各雑誌に一定の売り上げが上積みされるわけで、有り難いことに違いありません。
また、このdマガジンで配信されている電子雑誌は、写真の権利関係の影響などで一部変更があったりはするものの、ほぼ紙雑誌のデータをそのまま流用して作れる固定版面のEPUBデータですから、制作技術面での参入障壁も非常に低いです。レイアウトで見せているようなタイプの紙の雑誌をリフロー型に作り変えるのは相当以上の手間がかかりますし、雑誌ということで時間もかけられない以上さらに大変なことになるのは明白ですから、「今は固定版面でよい」というのは現実的な判断だと思います。もちろん今後もずっとこのままでよいのかという課題はあるでしょうが、それは各雑誌側が今後考えるべきことになるでしょう。
電子雑誌の技術面では、epubの次世代規格として検討中のものの中に「Epub Multiple-Rendition」という策定中の規格があり、これに各ビューアが対応してくれば結構大きな影響が出てくるだろうなと思っています。これはひとつのepubパッケージ内に複数のepubデータを収納するというような規格なのですが、固定版面型データとシンプルなリフロー型データを両方収納しておき、適宜切り替えて読ませるといったような使い方が期待できるわけです。
この電子雑誌の読み放題サービスには、Kindle Unlimitedにわずかに遅れる形にはなりましたが楽天も「楽天マガジン」で 参入してきており、まさに熾烈な競争がスタートしたと言えそうです。楽天マガジンはKindle Unlimitedと違って雑誌のみの読み放題ですし、Kindle Unlimitedとは違い、楽天Koboのアプリに統合する形ではなく専用アプリを用意する形を取るなど戦略に違いは見られますが、現時点ではどちらが 優位とも言えません。今後の展開を注視して行きたいところです。
書籍の「定額読み放題サービス」
さて、肝心の書籍の定額読み放題サービスはどうかと言えば、こちらも既に先行している例はあり、auの展開する「ブックパス」やYahoo!ブックストアの「月額読み放題プラン」などがあります。いずれも手軽な値段でコミックや軽い読み物などを楽しめるという性格のストアです。また少々変わり種としては、有斐閣が展開する法律系古典書籍の定額読み放題サービス「YDC1000」などもあります。
Kindle Unlimitedはまさにここに参入したわけですが、当然ビッグプレーヤーということで相当以上のインパクトはあったと言ってもよいでしょう。予想したとおり、サービス開始時点でのコンテンツの中心は軽い読み物やコミック、ビジネス書でした。

また、Amazonはサービス開始初年度には通常の販売と同額の代金を出版社に支払うとの話もあるようですので、これが本当なら、今後それなりに人気作がラインナップに入ってくる可能性はあると思われます。ただ、既に現時点でAmazonからの条件面の変更を理由として配信ラインナップ変更を表明した出版社もあったりしますので、今後どうなるのかは本当に流動的で読めません。

堅い専門書などは一見向かないが……
 
一方、専門書など「堅い」タイプの本はKindle Unlimitedのような一般向け読み放題サービスには一見向かないようには思えます。ただ、例えば新刊発売後の数ヶ月間だけKindle Unlimiedで読めるようにしておき、プロモーションとして利用する手はあるのではないかと思います。
先日の紀伊国屋書店新宿南店の閉店に象徴されるように、利幅の薄い本を商品とする書店は大型書店ですら苦戦を強いられているのが現状であり、従来新刊の販売プロモーションに大きな役割を果たしてきた書店店頭の面陳、平積みの面積は減り続けています。これを補完する意味で、一定期間電子読み放題サービスに出すというのは意味があるように思います。
「堅い」本は現在でも多くの場合は紙で購入されていますし、通常手元に置いておいて折に触れて何度も参照したいものでしょうから、数ヶ月で読めなくなるのであれば結局「試し読み」と同義になるでしょう。従来も書店店頭では全ページ目を通すことができたのですから、これによって書籍の売り上げが減るといったようなことは無いのではないでしょうか。
ただし、普通に考えれば他の大量のコンテンツに「埋もれ」ますから、出版社の側で販促用Webページを用意し、SNS等で拡散をかけるなどの方法で独自に導線を用意してやる必要はありそうです。
また、「堅い」本であっても、例えば大学で教科書に使われるようなものなどにはちょっと向かないようにも思いますし、実際にどの本で仕掛けるかは各出版社が慎重に判断する必要はあるでしょう。
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書籍の「定額読み放題サービス」というのは一見、従来の紙の本ではちょっと考えようが無かったビジネスモデルであるように思われます。ただ、例えばネットカフェ/マンガ喫茶は、場所やドリンク、コミック以外のゲームなどのコンテンツ提供と込みであるとは言え、「定額読み放題サービス」としての側面を持っています。
また、地域や大学などの「図書館」は、各地域の税金や大学の学費などを原資に書籍を購入し、地域住民や学生に書籍を貸し出しているという意味で広義の「定額読み放題サービス」であるとは言えそうです。もっとも図書館にはそれ以外にもの地域や学校内のコミュニティセンターや、長期にわたっての資料のアーカイビングなど他にさまざまな役割がありますから、「読み放題サービス」としてのみ考えるのは無理がありますが。
いずれにせよ、デジタルコンテンツでのサブスクリプション型サービス自体はもう大きな流れとして定着してきており、出版の分野でも一定の地位を占めると思っています。ただ、そこでの主流がKindle Unlimitedになるのかどうかはちょっとまだわかりません。この分野が今後どう発展し、定着していくのか、しばらくは目が離せないところです。
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