アトムよ、人間を越えろ!

「お父さん。どうして人間はいつまでも、にくしみあうの?どうして、あらそいがなくならないの?」
「それが人間の限界なのだよ。トビオ。
 人間には、くらやみの中から、未来をてらし出す情熱の炎がある。 
 
 だがそれは、みずからを焼きつくす危険な炎でもあるのだ。
 人間は一人ぼっちだ。
 くらやみの中でたった一人、恐ろしさのあまり炎をふりまわしては、みずからを傷つけている。
 どこから来て、どこへ行くのか、自分でもわからない。
 …ともだちが必要なんだ。
 くらやみの中で、いっしょに炎をささえてくれる仲間が。
 だから私はそれを…人間もロボットもこえる科学の子を、この手で作ろうとしているんだよ。」
「その子の名前は?」
「アトム…。そう名づけようと思う。けっして分けることができないものという意味のギリシャ語だ。
 どんなときも、人間のそばにいてくれるように。
 弱くておろかな人間と、ともに歩んでくれるように。
 それはきっと、おまえたちにとってすばらしいともだちになるだろう…」
「うん!ぼくはきっとその子と…アトムといっしょに行くよ。どこまでも行くよ…」
「トビオよ、見ているか。アトムだ。 
 あれが、おまえのアトムだ。 
 アトムよ、人間を越えろ! 
 国家や民族を! 
 思想や宗教を! 
 飢餓や貧困を! 
 戦争を! 
 人間の産み出した、くだらないものすべてを、越えて飛べ!
 おまえは飛ぶのだ、人間が超えられなかった高みへ! 
 おまえは行くのだ、人間が行けなかった未来へ!」