オリンピック・ブラック・マネー

新国立競技場の建設問題、エンブレムの盗用疑惑、「政治とカネ」の問題による都知事の相次ぐ辞職……。こうした不祥事で、今や東京五輪のイメージは最悪なものとなっている。新しい都知事には、東京五輪のダーティーなイメージを払拭し、開催都市のトップとして五輪を成功させる役割があるわけだ。
 しかし、都知事が交代しても、東京五輪は、決してクリーンな大会とはならないだろう。
☆それは、東京五輪の裏では、常にあの巨大広告代理店
    ・電通が暗躍しているからである。
●JOCの裏金疑惑で浮上した電通の存在 !
 5月11日、英紙「ガーディアン」のスクープによって、東京五輪招致委員会が電通を介して開催地決定の投票権を持つ国際陸上競技連盟(IAAF)のラミーヌ・ディアック前会長の息子に2億数千万円の裏金を支払っていた事実が発覚した。
 この裏金問題は、フランス検察当局がロシア陸上選手のドーピング問題でIAAF会長に不正な入金がないかを調査した際、日本オリンピック委員会(JOC)と五輪招致委員会がペーパーカンパニーを通じて多額の賄賂を支払っていたことが発覚し、疑惑が持たれた。
 陸上競技はスター選手が多く、世界記録を連発する「オリンピックの華」。統括するIAAFのトップは五輪招致に大きな影響力を持っている。そこで、ディアック前会長を狙い撃ちにしたところ、日本の裏金疑惑が出てきたのである。…
ベテランのスポーツジャーナリスト・A氏が語る。 
「近年、国際オリンピック委員会(IOC)は開催地決定をめぐりIOC委員の買収や不正が相次いだことを受けて、綱紀粛正に乗り出していました。
その矢先に発覚したのが、JOCが東京五輪開催を『黒いカネ』で買ったという疑惑です。
そして、日本の新聞やテレビはこの事実を黙殺しましたが、『ガーディアン』の記事には買収工作の実行部隊として『電通』の名前が何度も出てきます。そのため、各国のメディアも一斉に電通を批判したほどです」(A氏)
●五輪の不正工作の裏には必ず電通がいる ?
 電通が今回の裏金問題に深く関わっているのは、JOCの竹田恆和会長も認めたまぎれもない事実。竹田会長は国会に参考人として呼ばれた際、裏金を支払ったIAAFのディアック前会長の息子が関与するペーパーカンパニーについて、「コンサル会社から売り込みがあり、電通さんに実績を確認したところ、十分に業務ができる、実績があるということだった」と証言している。
 しかも、「今回の裏金問題は氷山の一角です。今後もまだまだ出てくる」と語るのは、IOC理事を務めた猪谷千春氏などを取材してきたスポーツジャーナリスト・B氏である。
「JOCや体協(日本体育協会)は、元選手と天下り官僚の寄り合い所帯。招致委員会も、実際は電通がすべて仕切っていました。そのため、これまでの日本側の不正には必ず電通が関わってきたのです。
 たとえば、IOCにはもらっていいプレゼントは2万円以内という内規があります。…
そこで、IOC委員を招く会合で数十万円もするモンブランの高級万年筆を筆記用具として用意。『プレゼントではない』と言い張り、事実上のプレゼント攻勢をかけたこともありました。
 また、大会やシンポジウムに海外のIOC委員を招待する名目でファーストクラスの航空券を送り、その払い戻しのお金を『賄賂』にするのも常套手段です」(B氏) 
 1998年の長野五輪では、来日したIOC幹部に日本刀などの美術品を「お土産」として渡したという。美術品は値があってないようなものなので、賄賂をカモフラージュするのに非常に便利なのだ。こうした裏工作のほとんどが、電通による仕業というのである。
●五輪を「売りさばいて」利益を得る電通 !
 スポーツジャーナリズムの間では、「電通こそが、オリンピックを腐敗させた元凶」が世界的な共通認識になっているという。電通は84年のロサンゼルス五輪から「五輪ビジネス」に深く関与している。
 戦後、五輪が国際的な人気イベントとなったのは、テレビの普及もさることながら、「米ソ冷戦の代理戦争」の側面が大きかった。
アメリカを中心とする西側諸国と旧ソビエト連邦(現ロシア)の東側諸国が、スポーツの場で全面対決する。国家の威信を懸けて熾烈なメダル競争をするため、どんなマイナー競技でも緊張感が高まった。戦後の五輪は、ある意味、プロレスのようなわかりやすい構図で広まっていったのだ。
「しかし、1980年のモスクワ五輪を西側諸国がボイコット。…
1984年のロス五輪も東側の不参加が確定していました。東西対決がなくなればロス五輪は失敗し、大赤字になる。そこで暗躍したのが電通でした」と語るのはB氏だ。
「ロス五輪実行委員会の依頼を受けた電通は、『商業オリンピック』という従来にない手法を提案したのです。大会のテレビ放送は莫大な放映権料を払ったメディアのみに与え、会場の広告や五輪マークなどの使用も、やはり巨額の契約金を払った公式スポンサーだけに制限。
さらに、不参加となった東側諸国の穴埋めに、プロ選手の出場解禁や、それまで五輪種目でなかったアメリカの人気スポーツを競技に加えました。その結果、ロス五輪は400億円の黒字を記録したのです」(B氏)
 この成功によって、電通の「商業オリンピック」は冷戦が終結した90年代以降にますます拍車がかかり、大きな利益が見込めるために、開催都市や国の招致予算も青天井となっていく。
開催都市を決める票を持つIOC委員には巨額の賄賂による買収工作が横行し、どんどん五輪を腐敗させていったのだ。つまり、電通は五輪を「売りさばく」ことで莫大な利益を得てきたのである。
●世界のスター選手からは無視される五輪 !
 しかし、ここにきて、「商業オリンピック」にはデメリットのほうが目立ち始めている。 
「スポンサーからお金を集めるには、五輪が世界最高のスポーツ大会、いわば世界中のトップアスリートが集まる大会でなければなりません。スター選手が出場するからこそ、莫大な放映権料を支払うテレビ中継も高い視聴率が約束される。…
ところが、商業化によって安易に競技種目を拡大した結果、現在
の五輪はマイナーなスポーツが増え、人気競技からスター選手が逃げ出しているのです」(B氏)
 実際、サッカーをはじめ世界的なスーパースターを抱える競技団体は、ワールドカップなど、「世界一」を決める大会を自分たちで主催している。わざわざ五輪で世界一を決めてもらう必要はまったくなく、むしろプロ選手の五輪出場を制限しているくらいなのだ。
テニスにせよゴルフにせよ、本物のトップアスリートは五輪よりも億単位の賞金が出る大会を優先する。
 現在の五輪で、世界的なスーパースターが参加する競技は陸上ぐらいしかない。電通がIAAF前会長に多額の賄賂を払ったのは、そのためである。
 今回の裏金問題は、こうした「商業オリンピック」の腐敗ぶりがあらわになったものといえる。疑惑の解明を進めるフランス当局は、電通を介してJOCが支払った裏金の総額は30億円以上とにらんでいるという。
 今後の展開次第では、東京五輪の開催都市返上にも発展しかねない大失態だが、日本のメディアは裏金問題で電通の名前を一切出そうとしない。せいぜい、「D社」と書いてお茶を濁すぐらいだ。
 そして、都知事選の候補者たちも、こんな腐敗しきったイベントが「東京をアピールする絶好の機会」などといって、裏金問題には頬かむりしている。電通と東京五輪という利権の前では、国も都も知事もマスコミも、みんな同じ穴のムジナなのだ。