小津が描いた「落ち着きのある日本」

“小津が描いた「落ち着きのある日本」など、その頃の日本にはどこにもなかった、というのは、いまでは西洋の熱狂的な小津ファンたちにも周知のことになっている。
半ば家出した主婦が、自分以外は列車の振動で揺れる一輪挿しの薔薇が揺れているだけの一等車のソファに腰掛けて憂色にふける、あの「日本」は、小津のあたまのなかにだけ存在した日本だった。”