毒マムシ善三

6月16日、ようやく辞意を表明した舛添要一東京都知事。皮肉にも、「第三者委員会」による疑惑についての曖昧な調査結果がかえって火に油を注ぐ結果となってしまいました。そもそも疑惑を向けられた当人が設置する第三者委員会に透明性・独立性を担保できるのでしょうか。
第三者調査で問われる弁護士のモラルと姿勢
もしかして、悪事がばれて立場が危うくなった政治家や企業は、第三者的調査を売り物にする佐々木善三のようなタイプの弁護士のもとに駆け込むのが通り相場になっているのだろうか。客観的、中立的に調査をいたしましたと言いながら、依頼者の意に沿ってたっぷりとサービスしてくれる。世間の目を眩ますのに、元東京地検特捜部副部長という肩書はうってつけだ。「マムシの善三」という渾名は、検事時代についたらしい。
公私混同、政治資金流用疑惑で辞職に追い込まれた舛添要一東京都知事が「第三者の弁護士に厳しい調査を依頼した」と、その名を明かさずに記者会見で話したとき、元経産相、小渕優子の「第三者委員会」を思い出した人もいるだろう。委員長をつとめたのが佐々木善三弁護士で、ひょっとすると舛添も…と思っていると、案の定、調査報告の記者会見に出てきたのは、善三さん、ならびに弁護士事務所のお仲間だった。欲深き者たちの「守護神」は東京電力、小渕優子、猪瀬直樹らをめぐったあと、ついに舛添に「降臨」したのだ。
東京電力では、福島第一原発「国会事故調」への虚偽説明に関する「第三者検証委員会」の委員だった。国会事故調に玉井俊光企画部長が「今は真っ暗だ」とウソの説明をし1号機建屋の調査を断念させたことについて、佐々木弁護士らの第三者委が2013年3月に公表した報告書にはこう書かれている。
玉井が国会事故調委員や協力調査員らに対して事実に反する説明をしたのは、玉井の勘違いに基づくものであり、その説明内容には勝俣会長、西澤社長、担当役員及び担当部長が一切関与していなかったのはもちろんのこと、直属上司さえも関与していなかった。玉井企画部長だけに責任を押しつけて、東電の会社ぐるみの隠ぺい工作を否定する内容だ。
「観劇会」をめぐる巨額の収支不一致問題で閣僚を辞任した小渕優子が自ら設置した「第三者委員会」の委員長にもなった。小渕の四つの政治団体における平成21~25年分の政治資金収支報告書で、計3億2,000万円の虚偽記入が判明したこの事件。
佐々木弁護士らの第三者委は、小渕について「監督責任があるのは当然で、責任は軽微とはいえない」と指摘しながら、「問題に関する認識をまったく有しておらず、事件にまったく関与していなかったことは明らか」と擁護し、政治資金規正法違反(虚偽記載・不記載)の罪に問われた元秘書2人のしでかした事件と片づけた。ちなみに、この委員会の委員を務めた田中康久弁護士(元仙台高裁長官)は先述した東電第三者委の委員長であった。善三さんと同じ体質をお持ちなのかもしれない。
前東京都知事、猪瀬直樹が都知事選がらみで徳洲会マネー5,000万円の提供を受け、東京地検特捜部から公職選挙法違反で略式起訴されたさい、50万円の罰金ですませたのも、弁護した善三さんの手腕のたまものだった。
まさに、大企業や政治家の守り神として八面六臂の活躍ぶりである。
だが、猪瀬のケースは別として、第三者の調査をうたう東電や小渕、舛添の場合、一つの根本的な疑問が浮かぶ。
そもそも、疑惑の当人なり企業が自ら委員を選任し報酬を支払う第三者委員会、あるいはそれに類する弁護士チームの調査を、どこまで中立、客観的なものとして信頼しうるかという問題である。たとえ「第三者の目で調査を」と依頼されても、「どうぞよしなに」という相手の本心は読み取れる。客観、中立という意味での第三者として調査にあたるのは実際には難しい。丁重にお願いされたら、好意的にはからいたくなるのが人間の常だ。しかも推測だが、こうした場合の報酬は相当なものだろう。
佐々木弁護士はどう考えるのか。舛添問題報告書の内容を説明した後、記者から「疑惑を抱える本人から依頼されて、調査を行うということで客観性は確保されるのでしょうか」と質問されたさい、佐々木はこう言い放った。
第三者委員会というのは、基本的にはそういうものです。今回はもちろん第三者委員会ではありませんけれども、第三者委員会のことをあまりご存じないと思いますけれども、第三者委員会というのは基本的にそういうものです。シロウトは黙っておれ、と言わんばかりではないか。ロクな説明もせずに「そういうものです」と押しつけるやり方は、善三さんにとっては大きな武器かもしれないが、良識の世界では通用しない。
舛添の調査報告書で、誰もが「不審」に思ったのは、2013年と14年の正月、木更津のホテルに家族とともに政治資金で宿泊したさい、出版会社社長が訪ねてきて面談したと舛添が説明しているにもかかわらず、佐々木弁護士らが出版会社社長に直接、確認をとっていないことであろう。その社長は元スポーツ新聞の記者で、競馬雑誌を発行し、競馬界で名の知られた人物らしいが、昨年秋に亡くなったという報道がある。ただ、舛添が言う社長がその人であるという確証は今のところない。
いずれにせよ知り合いの出版会社社長が2年連続、それもわざわざ正月、ファミリーがくつろいでいるホテルにやってくる無粋な行動をとるとは、ちょっと考えにくい。本当の話ならその氏名を明らかにすれば、舛添に対する疑いはいくらか晴れたはずだ。
佐々木弁護士はこう語る。
出版社の社長の件に関して申し上げますと、これはいろいろな事情があって、ご本人からはヒアリングをすることはできませんでした。それで、その出版社の社長の周囲の方からヒアリングをしましたところ、それを裏付けるような事実関係は確認できております。なぜ社長からヒアリングができないのか。事情とは何か。周囲の人に聞いて裏付けが得られたとは、どういうことなのか。さっぱり分からない。ごまかしているとしか考えられない。
最もポイントになる事実関係について、佐々木弁護士らは黙って舛添の言うことを聞き、いささかも疑わなかったのだろうか。いや、作り話と分かっているにもかかわらず、信じているように装っているだけだったのではないか。記者会見における佐々木弁護士の話しぶりは、そう推測するに足るものだった。
記者「これは事実として間違いない、(出版社社長は)その場にいたと、断言できると捉えてよろしいのでしょうか」
佐々木弁護士「これは事実認定の問題ですので、我々としてはそういうふうに認定したということです。実際に、知事がそう言っていて、それに沿うような裏付けがあれば、それをやはり疑うことはできない」
記者「秘書および関係者らのヒアリングを行ったとありますが、関係者というのは、具体的にどういう方が含まれているのですか」
佐々木弁護士「関係者というのは関係者です」
具体的に誰にヒアリングをしたか言えないというのも奇妙な話だ。「関係者とは」と聞かれ「関係者は関係者だ」というのは、あまりにも傲慢、不誠実ではないか。
記者「直接お店の店員だったり、関係者にヒアリングは行っているのでしょうか」
佐々木弁護士「そういうヒアリングを行うことによって、どういう意味があるのですか」…「事実認定というものをご存じないからそういうふうなことを言いますけれども、全てヒアリングをしなければいけないというものではないんです」
問い詰められると、問答無用とばかり突っぱねる。要するに、佐々木弁護士らは、舛添知事やその周囲の人以外、ほとんど聞き取りをしてないのではないか。舛添の言い分が事実であることを前提として、これは「問題ない」とか「不適切」とかを分類し、とどのつまり「不適切」でも「違法とは言えない」という結論を導き出すための報告書を作文したように思えるのだ。
第三者委員会、あるいは第三者的調査に求められるものは、客観的、中立的立場からの事実調査である。そのためには関係する人々からしっかりと話を聞き、資料を収集、分析して、事実をつかむ必要がある。佐々木弁護士が断定的に言う「事実認定」とやらのあり方が、彼のかつて所属していた検察の捜査手法だと思われたら、さぞかし検事諸氏はムカつくことだろう。
東電のケースもそうだが、現実に設置された企業などの「第三者委員会」報告をみると、首をかしげたくなる内容も多い。「第三者委員会報告書格付け委員会」の委員長である久保利英明弁護士は同委員会のウエブサイトにこう書いている。
21世紀に入ってから、企業不祥事の頻発に伴って世間の信頼を失った経営者の弁明に代わって、第三者委員会が利用されるようになった。しかし、第三者とは名ばかりで、経営者の依頼により、その責任を回避し、或いは隠蔽するものが散見されるようになった。…日弁連業務改革委員会は2011年3月に第三者委員会ガイドラインを公表した。それ以後、多くの第三者委員会報告書はこのガイドラインに「準拠する」とか、「基づく」と表記して、委員会の独立性や透明性、説明責任の遂行に配慮するように改善されてきた。しかし、最近は、このガイドラインの重要な項目に配慮せず、或いは、それに反して「第三者委員会報告書」を僭称したと評価せざるを得ないような報告書が見受けられる事態が起きている。独立性に疑問符のつく第三者委報告が頻発しているため、チェック機関としての「格付け委員会」が設置されたのである。それほど、弁護士のモラル低下は深刻なのだろう。
逆に、第三者委員会の出した報告が、会社側の思惑と異なっていると、トラブルが起きるケースもある。九州電力が、玄海原発の再稼働をめぐるインターネット説明番組への賛成投稿を自社や関連企業の社員に呼びかけた「やらせメール」事件では、第三者委が九電と佐賀県知事との不透明な関係を指摘したのに対して、九電側が反発、委員会との深刻な対立に発展した。
佐々木弁護士らの舛添問題に関する調査報告は、舛添の思惑に配慮し、多方面からの事実調査をしないまま、「違法性はない」と強調することだけに重点が置かれたもので、久保利英明弁護士が危惧する部類に属するといわざるをえない。
第三者委員会には設置に関する法的根拠がないうえ、報告をどう扱うかも依頼者の裁量にゆだねられる。それだけ、依頼者の意向に調査の方向が流されやすいのだ。
第三者的な調査にたずさわる弁護士は、事実解明、原因分析など本来の仕事を淡々とこなすべきである。たとえその結果、依頼主の希望と違う報告書になったとしても仕方がない。事実をねじ曲げるようなことに手を貸すべきではない。
ーーーーーーーーーーーーーー「官邸から炉心溶融という言葉を使うなという指示があった」。福島第一原発事故を巡り東電が設置した第三者委員会のこの調査結果、検証方法に各所から疑問の声が挙がっています。注目すべきはこの第三者委員会にも、「汚職の守り神…舛添、小渕、猪瀬を擁護した『逆ギレ弁護士』の正体」で取り上げた逆ギレ弁護士こと佐々木善三氏が名を連ねているという事実。
マムシの善三、今度は東電の炉心溶融隠ぺいを擁護
またしても「マムシの善三」がらみの話をしなければならない。
舛添問題のずさんな調査報告書で一躍、悪名をとどろかせた「マムシの善三」こと、佐々木善三弁護士(元東京地検特捜部副部長)が、こんどは東京電力の「炉心溶融」隠ぺい疑惑でも、「第三者検証委員会」を名乗って片手落ちの調査報告書を作成し、依頼主に大サービスした。福島第一原発事故から2か月もの間、東電が「炉心溶融」ではなく「炉心損傷」だと世間を欺いたのは、官邸の指示があったからだと思わせる内容の報告書を、当時の官邸の主である菅直人元首相らに何一つ聞くこともなく作成し、公表したのである。
福島第一原発の原子炉は2011年3月14日から15日にかけて次々と「炉心溶融」に陥った。原子炉建屋が爆発するなど苛烈な事故の状況がテレビに映し出され、いわゆる「原子力村」に属さない専門家は「炉心溶融」との見解を明らかにしていた。ところが東京電力は「炉心損傷だ」とウソをつき続け、しぶしぶ「炉心溶融」を認めたのは約2か月も後のことだった。
この問題を継続して追及していた新潟県の技術委員会に対し、東電は「炉心溶融」の判断基準がなかったと言い逃れてきたが、今年2月24日になって社内に「炉心溶融」の判断基準マニュアルがあったことを認め、新潟県に謝罪した。同日の朝日新聞によると、この判断基準に従えば事故3日後の3月14日には1、3号機について「炉心溶融」を判定できていたという。
マニュアルがあったのに生かされなかったことについて、東電の言い訳は次のように、きわめて不自然だった。
新潟県の技術委員会の求めで当時の経緯を調べ直すなかで、判断基準の記載があることに社員が気づいた。マニュアルはイントラネットで社員が共有していたはずである。いくら東電がいい加減な会社でも、このように重要なマニュアルを見つけるのに、なぜ5年もかかるのか。
東電はマスコミの追及をかわすため自ら説明するのをやめ、「第三者の協力を得て、経緯や原因を調べる」と、佐々木弁護士らの「第三者検討委員会」なる隠れ蓑にふたたび逃げこんだ。2013年、国会事故調への虚偽説明問題で同委員会を設置し急場をしのいだのに味をしめたのだろう。舛添問題の調査報告書についての記者会見で「事実認定とはこんなもの」「第三者委員会とはこんなもの」と独善的な素顔をのぞかせた「マムシの善三」がよほど頼りになるらしい。
今回の東電「第三者検証委員会」は、田中康久弁護士(元仙台高裁長官)を委員長とし、佐々木ともう一人の弁護士が委員をつとめている。小渕優子の政治資金収支不一致問題では佐々木弁護士が委員長、田中弁護士が委員だったが、東電では前回、今回とも田中弁護士が委員長として前面に立つかたちになっている。
田中弁護士の高裁長官という経歴は、客観・中立の衣を纏うのにすこぶる都合がいいようだ。表に76歳の元高裁長官を押し立てて、実務の中心を担ったのが63歳の佐々木弁護士であろう。彼らの「第三者検証委員会」は検証結果報告書をまとめて6月16日、記者会見した。
驚いたのは、調査手法が舛添のケースとそっくりであることだ。舛添前都知事の公私混同問題について、「第三者」は事実関係をほとんど舛添やその近親者の言い分だけで認定し、多方面から話を聞いて客観性を確保する作業をあえて避けた。東電に関しても、ヒアリングをしたのは東電の社長や幹部ら内部の60人に限り、当時の官邸や政府関係者からは一切、聞き取りしていない。
報告書の次の二つの記述に注目してみたい。
清水社長が、記者会見に臨んでいた武藤副社長に対し、広報担当社員を通じて、「炉心溶融」などと記載された手書きのメモを渡させ、「官邸からの指示により、これとこの言葉は使わないように」旨の内容の耳打ちをさせた経緯があり、この事実からすれば、清水社長が官邸側から、対外的に「炉心溶融」を認めることについては、慎重な対応をするようにとの要請を受けたと理解していたものと推認される。その一方で、このような記述も見られる。
この点につき、当第三者検証委員会は、重要な調査・検証事項の一つと捉え、清水社長や同行者らから徹底したヒアリングを行ったが、官邸の誰から具体的にどのような指示ないし要請を受けたかを解明するには至らなかった。これはまことに奇妙な調査報告と言わざるを得ない。徹底的にヒアリングして官邸の誰からどのような指示を受けたか分からないにもかかわらず、官邸が「炉心溶融」を認めることについて慎重な対応を東電に指示していたかのように書いているのである。
清水社長はその件に関して記憶していないという。いくら心理的パニックに陥っていたとしても、武藤副社長に、官邸からの指示として渡したメモの内容について忘れてしまったとは考えにくい。
しかも、武藤副社長にメモを渡しながら、わざわざ「官邸からの指示で」とマイクに届くように囁いたのが広報担当社員であったという事実は重大な疑念を呼び起こす。広報の社員なら、マスコミ各社のマイクやボイスレコーダーがテーブル上に並んでいるのを強く意識しているはずであり、そのためにこそ声を出さず、メモという形で伝えるわけである。
ただし、「官邸が…」と声を出すよう、清水社長から広報担当社員へ指示があったとすれば、清水社長が意図的に官邸に責任転嫁した可能性もあり、「記憶がない」で押し通している理由もなんとなくわかる。
それにしても、この第三者委は、なんといい加減なことだろう。東電内部のヒアリングで事実関係がはっきりしないのなら、当時の菅直人首相や枝野幸男官房長官に聞きに行けばいいだけではないか。官邸というからには、この二人を除くわけにはいかないだろう。政権の座からすでに退いている二人から聞くのは難しいことではあるまい。記者会見ではその点について次のようなやりとりがあった。
記者「官邸の人たちにはヒアリングしなかったのか」
田中委員長「していない。第三者委員会は調査権限が限られていて、任意でしか調査できない。今回は清水社長がはっきりしたことを言わないので、たくさんの人から聞かねばならず時間が足りない」
記者「要請はしたのか」
田中委員長「していない。短期間でやるのはむずかしい」
記者「官邸からの指示は本当にあったのか、雰囲気を感じたのか、もしくは清水社長が忖度したのか」
田中委員長「保安院に情報は官邸に上げてから発表するようにという指示があり、炉心溶融についてもできるだけその言葉を使わないようにという指示が出ていた。それと突き合わせると、どういう事実認定になるかということだ」
この人たちはいったい何を調べているのだろう。簡単な事実調査を行わず、無理な推認で事実認定をしようとしているのではないか。菅元首相や枝野元官房長官に当時の話を聞くのに、さほどの時間はかかるまい。自分たちで、「炉心溶融」と言わないよう官邸から東電に指示があったかどうかをポイントにあげているにもかかわらず、当時の官邸サイドから何ら聞き取りをしないというのは、真相を追求しようという気が最初からない証拠である。
これについて、当時の官邸の主、菅直人元首相が怒るのは無理からぬことだ。東電第三者委の会見の翌日、菅は自身のブログにこう書いた。
東電の自称「第三者検証委員会」が発表した報告書で、清水社長が「炉心溶融」という言葉を使わないようにと社内に指示していたことを明らかにした。それに加えて「清水社長は官邸側から、対外的に『炉心溶融』を認めることについては、慎重な対応をするようにとの要請を受けたと理解していたものと推認される。」と報告書は述べている。しかし、当時総理として官邸にいた私が清水社長に「炉心溶融」という言葉を使わないように指示したことはない。当時官房長官であった枝野氏も同様に「ありえない」と言っている。私は早い段階で、炉心溶融(メルトダウン)の可能性は外部の専門家からも聞いていた。しかし原子炉を直接運転しているのは東電であり、東電からの報告がないのに推測で言うことはできなかった。自称第三者検証委員会は「官邸側」という表現を使いながら、この件について官邸の政治家には一切聞き取りをしておらず、東電にとって都合のいい結論に導いている。菅は6月17日の午前中に田中委員長に電話し、「報告書について説明を受けたい」と申し入れた。菅によると、田中委員長は他の委員と相談し、その日の午後「説明義務を果たす気はない」と電話で回答してきたという。
官邸側からヒアリングをしない以上、清水社長の証言がポイントとなる。ところが、先述したように、清水社長は当時の記憶がないというのだ。記者会見における関連の発言内容をいくつか並べてみよう。
田中委員長「清水社長がこの人からこう言われたとはっきり言ってくれればよかったんでしょうが…」
佐々木委員「清水社長が精神的に追い込まれ、細かい記憶がないと周囲の方もおっしゃり、ご本人にも(4時間にわたり)質問したが、よくおぼえておられなかった」
肝心の清水社長が、官邸から指示があったかどうかの記憶がないというのに、どういう判断で「官邸側から炉心溶融について慎重な対応をするようにとの要請を受けたと理解していたものと推認される」と、勝手な解釈を報告書に書けるのだろうか。
田中委員長はこう言った。
清水社長は記憶がないということだったが、流れからいくと、なんとなく炉心溶融の問題を含めて官邸とか保安院の意見を聞いた方がいいというようなニュアンスでおっしゃているような感じはしました。「なんとなく」「流れ」「ニュアンス」「感じ」…そんなあやふやなことで「官邸の指示」があったと推認しているのだ。
第三者委は「炉心溶融を東電が隠ぺいしたとは理解していない」と言っているが、その根拠は「官邸からの指示」があったと推認したからである。にもかかわらず、その指示があったかどうかは東電内部で確認できないばかりか、当事者である菅元首相ら、当時の官邸メンバーに問合せすらしていない。
調査報告公表後、東電の広瀬現社長は隠ぺいを認め謝罪したが、「官邸の指示」についての追加調査をする気はなく、第三者委を利用した「免罪符」は持ち続けるかまえだ。
こうしてみると、第三者委は、責任追及をかわしたいであろう東電のために、あらかじめ責任転嫁ストーリーを組み立て、それに沿った証言を得るためのヒアリングをしてきただけではないかという疑念さえ浮かんでくる。当時の官邸メンバーからの聞き取りをして否定されたら、責任転嫁ストーリーが崩れてしまう。それを計算していたがゆえに、菅元首相らへのアプローチを避けたのではないだろうか。
前号にも書いたが、「第三者委員会報告書格付け委員会」の委員長、久保利英明弁護士は「第三者とは名ばかりで、経営者の依頼により、その責任を回避し、或いは隠蔽するものが散見されるようになった」と憂慮している。「第三者とは名ばかり」の報告書が、またひとつ加わった、ということであろう。
2016-06-24 14:43