非定型抗精神病薬が登場し、これまでの抗精神病薬に比べて統合失調症の陰性症状や認知機能に対する効果が期待されたにもかかわらず、その効果は限定的であり、治療目標である社会機能の改善までには至らないことが明らかにされつつあります。米国では、認知機能の改善を目指した新薬の開発が積極的に進められていますが、いまだにFDAから承認が得られた薬物はありません。一方、心理社会的アプローチからは、認知矯正療法が認知機能障害に対し一定の有効性を示しており、また、就労支援やSSTなど、その他の心理社会的アプローチと組み合わせることで、社会機能にも一定程度の改善効果を示すことが明らかにされています。さらに、認知機能と社会機能の間には、社会認知や動機といった多くの介在因子が存在することも明らかにされ、その介在因子に対するアプローチも試みられています。
一方、認知機能障害は統合失調症に特異的なものではなく、統合失調症より軽度ではありますが、気分障害の寛解期においても認知機能障害が存在し、その社会生活に大きな影響を及ぼすことが知られるようになりました。とくに、気分症状が改善してもなかなか復職につながらない患者においては、残存する認知機能障害の影響が推測されています。また、その認知機能障害のプロフィールは、統合失調症と類似していることから、元来統合失調症を対象としてきた認知矯正療法が気分障害にも適用されるようになってきました。米国のNIMHが提唱するRDoC(Research Domain Criteria)プロジェクトでは、認知機能障害はドメインの一つとして取り上げられ、臨床診断を超えて、その生物学的基盤や治療法の開発に取り組む対象となっています。