マンションの施工が不完全であることが発覚した場合、「全棟建て替え」となる恐怖がマンション業者とゼネコン業界を襲った。
全棟建て替えの先鞭をつけたのは、15年10月に杭打ちデータの偽装が発覚した三井不動産レジデンシャルの傾斜マンションだ。全4棟の建て替えなど、手厚い補償案を住民側へ提示し、16年2月に住民側も建て替えに同意した。
横浜市都筑区のマンションは販売元が三井不動産レジデンシャル、元請けが三井住友建設、1次下請けが日立ハイテクノロジーズ、2次下請けが旭化成建材だった。杭打ちデータを改竄した責任をめぐって、三井住友建設と旭化成建材が対立している。建て替え費用の負担をどう配分するかは決まっていない。
一方、住友不動産が販売元の横浜市西区のマンションでも、14年6月に全5棟のうち4棟で支持層と呼ばれる固い地盤に杭が届いていないことが判明した。1棟は傾斜していて危険なため住民は退去済み。住友不動産と、施工した熊谷組は1棟を建て替え、残り3棟には補修工事を施す方向で住民と協議を進めていた。
ところが、三井不動産レジデンシャルの全棟建て替えが決まったことから、住友不動産に対して全棟建て替えを求める声が上がった。このため、結局、全5棟の建て替えをすることになった。
全棟建て替えの影響は、関連企業の決算にどう影を落としたのか。
■旭化成、14億円の特別損失
旭化成の16年3月期の連結決算にどう影を落としたのか検証してみた。純利益は前期比13%減の917億円にとどまった。
減益は3期ぶりのこと。マンション杭打ちデータの改竄問題では調査費用として14億円の特別損失を計上した。
売上高は2%減の1兆9409億円。年度後半の石油化学製品の価格下落が響いた。営業利益は5%増の1652億円と3期連続で最高益を更新した。
杭打ち問題は、拍子抜けするほど決算に影響を与えなかった。問題の建材事業の売上高は5%減の494億円、営業利益は41%増の58億円。住宅事業は「ヘーベルハウス」の引き渡し戸数が増えたことから、売上高は6%増の5830億円、営業利益は10%増の654億円だった。
しかし、問題発覚後、「ヘーベルハウス」の受注が落ち込んでいる。これが決算の売り上げ減として顕在化するのは1年後だ。
だから、杭打ち問題が決算に反映してくるのは17年3月期以降になる。17年3月期は売上高が前期比2%減の1兆9100億円、純利益は微増の920億円と見込んでいるが、これには横浜市の傾斜マンションの補償などの費用は織り込まれていない。三井不動産レジデンシャルの親会社である三井不動産との費用の分担交渉に時間がかかる見通しだからだ。
マンション建て替え問題は、旭化成にとって“のどに刺さった骨”であり続ける。