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ケビン・カーターさんの告白
「国連などの食糧配給センタ-から500メ-トル離れたところで一人の少女に出会った。こんな風にうずくまって(真似をして見せる)必死に立ち上がろうとしていた。その光景を見たあと、いったんはその場を離れたが、気になってもう一度引き返した。すると、うずくまった少女の近くにハゲワシがいて、その子に向かって近づいて行った。
その瞬間、フォト・ジャ-ナリストとしての本能が“写真を撮れ”と命じた。目の前の状況をとても強烈で象徴的な場面だと感じた。ス-ダンで見続けてきたもののなかで、最も衝撃的なシ-ンだと感じた。自分はプロになりきっていた。何枚かシャッタ-を切ってからもっといい写真を撮るのにハゲワシが翼を広げてくれないかと願った。15分から20分ひたすら待ったが、膝がしびれはじめ諦めた。起き上がると、急に怒りを覚え、ハゲワシを追い払った。少女は立ち上がり、国連の食糧配給センタ-の方へよろよろと歩きだした」
「この後、とてもすさんだ気持ちになり、複雑な感情が沸き起った。フォト・ジャ-ナリストとしてものすごい写真を撮影したと感じていた。この写真はきっと多くの人にインパクトを与えると確信した。写真を撮った瞬間はとても気持ちが高ぶっていたが、少女が歩き始めると、また、あんたんたる気持ちになった。私は祈りたいと思った。神様に話を聞いて欲しかった。このような場所から私を連れ出し、人生を変えてくれるようにと。木陰まで行き、泣き始めた。タバコをふかし、しばらく泣き続けていたことを告白しなくてはならない」
(NHK教育「メディアは今―人命か報道優先か・ピュリツアー賞・写真論争―」94・6・30放送)