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「災害地名」とはどんなもの
今回の研究発表で取り上げられている災害地名は「新田」「小沼」「松川」「平林」「下平」などです。これまで地名研究者の間で自然災害と関係ある地名とされてきたものは「川」「瀬」「水」「沼」「沢」「潟」などいろいろあるのですが、いずれも過去の火山噴火で埋まってしまったところ、溶岩が流れ出てきたところ、地震で崩れたり大きな断層ができたところ、いわゆる液状化現象が生じたところ、大雨がふると洪水になったり、山が崩れて地滑りが起きたり、土石流に襲われたりしたことを示すものです。
ところが、「新田」「小沼」「松川」「平林」「下平」のいずれをとっても、日本列島どこにでもある地名であり、そこから災害のかけらも感じ取れないことから、誰もが注意を払わない結果、過去の災害の教訓が活かされないと言えます。
たとえば、「新田(しんでん)」は文字どおり「新しく開発された田」を意味します。誰もが、これのどこが災害地名なのだと思ってしまいます。が、よく考えて下さい。新しく開発された田は、埋め立てられてできた、あるいは大洪水や土石流でできたものなのです。当然、地盤がゆるいのです。その上に家を建てたら地震に弱いことは明らかでしょう。江戸の下町は江戸湾を埋め立ててできたものであることはよく知られているところですが、東京の「神田(かんだ)」も実は「しんでん」で、どもにもあるような「新田(しんでん)」では面白くないので、「しんでん」を文字って「神田」にしたのです。地盤などがゆるく危ないので「明神さん」を祀って安全を祈願したものです。
「新田」を「にった」と読んでいる場合は、もともとは「ヌタ」と読んでいたものが転化したもので、「沼・地」を意味した「ヌマ・タ」が「ヌ・タ」、さらに「ニ・タ」になり、「新田」という字や「仁多」「仁田」が当てられたと言われています。アイヌ語で「ニタ」は「湿地」を意味するのですが、日本民俗学の祖とも言うべき柳田国男はこの説を採用しています。
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