統合失調症は精神が関わる病気として知られており、人種などに関係なく100人に1人の割合で発症する頻度の高い疾患です。統合失調症では幻覚や妄想などの症状が表れます。また、感情が鈍くなることもあり、日々の行動に支障をきたしてしまいます。
そこで、統合失調症を治療するために用いられる薬としてアセナピンがあります。アセナピンはD2受容体・5-HT2受容体遮断薬(SDA:非定型抗精神病薬)と呼ばれる種類の薬になります。
アセナピンの作用機序
統合失調症を発症したとき、最初は幻覚・妄想を生じるようになります。これを専門用語で陽性症状と呼び、現実と非現実との境目が曖昧になります。
これら妄想などは、頭で考えることで起こります。つまり、統合失調症などの精神疾患は脳に異常が起きているといえます。具体的には、陽性症状では神経伝達物質の一つであるドパミンの分泌が過剰になっています。そこで、ドパミンの働きを抑えることができれば、統合失調症の陽性症状を軽減できることが分かります。
ドパミンはD2受容体(ドパミン2受容体)と呼ばれる場所に結合することで、その作用を発揮します。そこで、D2受容体を阻害する薬を投与すれば、陽性症状が改善します。
定型抗精神病薬の作用機序:D2受容体阻害薬
統合失調症では、中脳辺縁系と呼ばれる脳の部位でドパミンの放出が過剰になっています。この場所に対してドパミン阻害作用を示せば、統合失調症の陽性症状が軽減されます。
その一方で、ドパミンの機能が低下している部位も存在します。このような部位を中脳皮質系といいます。中脳皮質系のドパミン放出が低下すると、今度は意欲の低下や集中力の減退が起こります。これを、専門用語で陰性症状といいます。
統合失調症では、陽性症状が表れた後に陰性症状を生じるようになります。つまり、統合失調症は「中脳辺縁系のドパミンが過剰になることで生じる陽性症状」と「中脳皮質系のドパミンが減少することで生じる陰性症状」の2つが混在しているのです。
そのため、単にドパミンの働きを阻害するだけでは、陽性症状を改善しても陰性症状までは治すことができません。それどころか、ドパミンを阻害しすぎると陰性症状が悪化してしまいます。
そこで陰性症状まで改善させるため、ドパミンに加えてセロトニンの阻害作用も併せ持つようにします。ドパミンと同じように、セロトニンも脳内に存在する神経伝達物質の一つです。なお、セロトニンだけを阻害しても陰性症状は良くなりません。ドパミンとセロトニンの両方を阻害することが陰性症状の改善に必要だと考えられています。
このような考えにより、ドパミンとセロトニンの働きを「ほどよく阻害する」ことで統合失調症の陽性症状と陰性症状を改善させる薬がアセナピンです。
アセナピンの特徴
統合失調症だけでなく、アセナピンは双極性障害(躁うつ病)の治療にも用いられます。憂うつな状態が続く病気をうつ病といいますが、双極性障害(躁うつ病)ではテンションの高い状態(躁状態)と気分が落ち込んでいる状態(うつ状態)が交互に繰り返されます。
双極性障害のうち、躁状態に至るものを1型双極性障害、軽度の躁状態(軽躁状態)に至るものを2型双極性障害といいます。アセナピンは1型双極性障害に活用されます。
アセナピンは舌下錠として用いられます。口から飲みこむのではなく、舌の下に錠剤を入れることで有効成分を素早く吸収させるのです。唾液によって数秒で錠剤が崩壊するため、完全に溶解するまで待つ必要があります。決して、錠剤を噛んで砕いてはいけません。
主な副作用としては、不安や眠気が挙げられます。ドパミンやセロトニンなどの神経伝達物質は意欲や覚醒などに関わるため、こうした副作用が起きやすいのです。めまいや筋肉の緊張、疲労、味覚障害などの副作用も知られています。
また、血糖値を上昇させる可能性があるため、糖尿病を患っている人は注意してアセナピンを使用しなければいけません。このような特徴により、舌下錠として活用することで統合失調症や双極性障害を治療する薬がアセナピンです。