結婚でうまくいく人、ダメになる人 その違いとは何か? なぜ、結婚は 人生最大の分かれ道なのか?  男女が一緒の籍に入り、一つの家庭をつくる結婚。入り口は同じでも出口はまったく違うというのは、多くの人が実感していることでしょう。結婚を機に「伸びた人」と「ダメになった人」がいるのも、また悲しい現実です。  独身時代は気が弱く頼りなかった人が、結婚を機に守るものが増えて腹が据わり、責任感やリーダーシップが芽生えた一方で、家庭内のギスギスを職場に持ち込んで満足な成果を出せずに左遷されてしまった人がいます。

結婚でうまくいく人、ダメになる人
その違いとは何か? 
なぜ、結婚は
人生最大の分かれ道なのか?
 男女が一緒の籍に入り、一つの家庭をつくる結婚。入り口は同じでも出口はまったく違うというのは、多くの人が実感していることでしょう。結婚を機に「伸びた人」と「ダメになった人」がいるのも、また悲しい現実です。
 独身時代は気が弱く頼りなかった人が、結婚を機に守るものが増えて腹が据わり、責任感やリーダーシップが芽生えた一方で、家庭内のギスギスを職場に持ち込んで満足な成果を出せずに左遷されてしまった人がいます。
 相手の性格の良い部分や習慣を取り入れて人間的に成長していく人がいる一方で、使える時間もお金も独身時代のようにはいかず、新たな制約のもと、結婚が足かせになってしまうような人がいます。
 結婚は、良い意味でも悪い意味でも生活基盤を揺るがすものです。仕事でバリバリ働けるのもしっかりとした生活基盤があるからで、相手の理解とサポートがなければ努力することさえできません。
 どのような結婚をするかによって、時間やお金の使い方から、人付き合い、物の見方、健康、そしてその後の人生計画も大きく変わってくるのです。結婚による最大の変化は、それまでシングルスの試合だったのがダブルスの試合になるように、常に「相手」「ペア」がいる生活となることです。
 「個人力」で生きてきた人生から、「チーム力」で生きていく人生に変わる大きなターニングポイントなのです。人が成長する瞬間には、必ず「他者」の存在があります。他者と真剣に向き合い、異質な価値観を受け入れたり、自分のダメな部分を克服していくことで、一人では成し遂げられない進化を生み出します。
 思いやる相手や、共鳴し合える相棒ができることによって、自身の能力に自ずとストレッチが利いて、潜在能力が発揮されるものなのです。自分以外の「他者」とどう向き合うべきか、いかに予測不能な出来事をマネジメントしていくか、それによって人生にレバレッジをかけられるか、スポイルされるかが分かれると言ってもいいでしょう。
 他者との付き合い方が人生を決めるというのは他のことにも言えることですが、それがもっとも濃縮された形によって表れるのが結婚です。なぜなら、結婚とは日常そのものであり、生活基盤を生み出すものだからです。
結婚は自由を奪い、
目標を成し遂げられなくする邪魔物か?
 結婚についてよく言われることに、「束縛の制度」「人生の墓場」といった言い回しがあります。確かに結婚には、犠牲と幸福のトレードオフである部分はあります。
 しかし、独身の人がよく言う「自分の人生を何より大切にしているから、犠牲になりたくない」「成し遂げたいことがあるから結婚は邪魔もの」というのは本当でしょうか。
 面白いことに、実際に結婚を後悔している先人の中では、こうした理由の後悔はほとんどありませんでした。それなりの犠牲は強いられていたけど、後悔自体はそこにはないということなのです。
 これは、結婚というものが、経験する前と後ではだいぶ印象が違うものであり、結婚自体が犠牲を生み出すのではなく、相手との関係構築の過程や、やり取りによって後悔が生まれていることを表しています。
 つまり、お互いのすり合わせや修正によって乗り越えられる人と、それをうまくできずに乗り越えられない人がいるというのが本音であって、結婚することで自分がなくなるとか、何かを達成できなくなるということではないようです。
 事を成し遂げられる人は、結婚を上手にマネジメントし、相手のサポートも手にしながら次なるステージへと進化しています。むしろ、原動力に転換しているのです。本人がどれだけ真剣に結婚生活にコミットしているか、そこに大きな違いがあるようです。
 さらに、結婚がもたらす苦難とは別に、結婚することで、結婚前では想像できなかった飛躍を感じている人がいることも、1万人インタビューからわかりました。
 仕事でもそうですが、自分の中で完結できてしまうものは結構多いものです。ですが、そこにはジャンプするような成長はありません。限界があったと気づくのは往々にして限界を超えた後なので、ジャンプした経験がないとなかなかわかりませんが、その気づきを生み出すのは結婚生活が一番大きいのではないでしょうか。
 それは、一人なら簡単に逃げてしまえることが、結婚したことによって、「逃げられない」状況に変わるからです。仕事でも人付き合いでも、自分の価値観を覆すことや、どうしようもないような苛立ちというのは生まれます。けれど、そこから逃げるという選択肢がある限り、ジャンプ台には立てません。
 恋愛では、面倒になれば逃げられますが、結婚では絶対に逃げられないという状況があるのです。だから、問題と真剣に向き合わざるを得なくなる。すると、明らかに昔と比べて手にしているものが多いことに気づく、というのは頻繁に起こります。
 逃げられないから、その覚悟で自分の限界に挑まざるを得ない。その結果、人として成長し、別のステージへとジャンプするというのが、結婚による「ストレッチ作用」です。
 一人のときには二つの目で自分を振り返っていたのが、結婚することによって目の数は四つに増えます。その増加分が時にコーチやチームメイトの目の役割を果たし、より良い方向へ前進できたり、モチベーションを高めることができるのです。
 相手から直接的なアドバイスを受けなくても、目標へ向き合う情熱の熱量は一人より二人のほうが時に増すことを、多くの先人たちが語っています。何かを成し遂げようとするとき、同じ目標を共有できる人がいるほうが、ずっと実現度は高いし、自分以外のために努力するほうが幸福感は高いと、結婚でレバレッジをかけられた先人たちは教えてくれているのです。
人生の分岐点で、
お互いのサポートを得られない悲劇
 夫婦が同じ夢の実現に向かって目標を共有する上でも、うまくいく夫婦とダメになる夫婦には違いがあります。お互いが歩み寄りながら、相手のサポートを上手に受けて
前進できる人と、押し付けや強要によってサポートどころか計画そのものまで壊してしまう人がいるのです。
 起業を夢見ていたBさんは、誰もが知っている大手企業に勤務するサラリーマンで、奥さんとは20代で職場結婚をしました。奥さんは非常に優秀な庶務で、気が利く上に仕事が早くて正確、人事異動のたびにマネジャー間で争奪戦になるほどの逸材でした。
 奥さんもBさんの独立志向を頼もしいと思っていましたし、将来、起業するという夢を二人で追いかけようと考え、恋愛結婚しました。
 しかし、30代になって創業資金の目途がかったある日、居酒屋を出したいと奥さんに打ち明けたところ、大反対され離婚してしまったのです。起業に協力的だった奥さんでしたが、まさかBさんが居酒屋で独立しようとは思ってもいなかったようです。
 今の仕事は居酒屋とはまったく異なる業種で、プロでさえ3年後の生存率が3割、10年後の生存率が1割といわれる飲食業の世界に、まったくの素人が手を出してうまくいくはずがないと奥さんは大反対したのです。
 Bさんのビジネスプランにどこまで成功する可能性があったのかはわかりませんが、問題は成功率ではありません。Bさんからみれば、一世一代の勝負を理解してくれない奥さんへの不満はピークとなり、その後の人生設計を狂わすはめになりました。
 一方の奥さんにとっても、仕事も家庭も順風満帆で理想どおりの結婚生活を送れており、しかも、いずれ夫が独立する際は家庭も仕事もしっかり支える覚悟ができていたにもかかわらず、夫が託した夢が居酒屋という決断だったことで人生設計を狂わせてしまいました。
 二人は話し合い、結果的に居酒屋経営という夢はあきらめたのですが、ここではじめてお互いのビジョンの食い違いというものに気づいたといいます。
 Bさんも居酒屋経営という夢を泣く泣くあきらめたのですが、その後、Bさんにとっては自分に理解のない妻、奥さんにとっては、自分のことばかりで家族を顧みない夫というギャップが生まれてしまったそうです。そしてその後、お互いにそのミゾを埋めることができずに、最終的には結婚生活にピリオドを打ってしまったのです。
夢をつかんだ夫婦、別れた夫婦の違いは
夫婦間の「ビジョンの共有法」
 このBさん夫婦については、Bさんに共感する人も、奥さんに理解を示す人もいると思います。ただ、もっと前にお互いのビジョンを話し合っておけば、ベクトル合わせの余地は十分に残されていたはずです。
 Bさんがギリギリまで夢が居酒屋であるのを隠していたのは、それを言うことで、奥さんが反対するのがわかっていたからです。だから、自分なりに準備をし、恐らくこれならいけるという確信をもって奥さんに話したのです。
 しかし、奥さんからすれば、もしかしたら居酒屋であることが反対の理由なのではなく、その段階になるまで相談されなかったこと、自分で勝手に何でも決めてしまったということに不満を感じたのかもしれません。
 ビジョンというのは、何を大切にして、どんな人生を、どのように送るかという方向性です。ビジョンを語るというのは、思い描く姿を「自分の言葉」で「相手にわかる」ように描写することです。
 ワンマン社長であれば、そのビジョンを社員や役員の前で一方的に語ることがほとんどですが、家庭内では二人が共同経営者ですから、お互いがビジョンを語りながら、その方向性を調整することが不可欠となります。
 Bさんの場合は、独立というところまでは奥さんの理解は得られていたわけですから、後はその中味のすり合わせがもっと前の段階から頻繁にあれば、事態は変わってきたはずです。
 逆に、自分のビジョンを相手に頻繁に語り、結果的にサラリーマンから社長に昇りつめて本人の望む人生を手にしたある経営者がいます。彼は結婚当初は、20代後半で主任だったのですが、この時期から毎年、元旦に必ず自分の掲げているビジョンに沿って、その一年の夫婦としての計画を発表していたそうです。
 そして、それを夫婦間ですり合わせ、奥さんも奥さんの計画を発表していたといいます。3人の娘も大きくなると一家の「事業計画」に加わり、それぞれに自分の計画を話すようにさせたそうです。こうなるとほとんど会社です。ちなみに、この経営者は自分のお母さんにも計画発表を促したそうですが、バカにして応じることはなかったみたいです。
 私もこのエピソードを聞いたときには冗談かと思って笑ってしまいましたが、確かに夫婦間や家庭においても目標や計画がなければ、その方向には進めないわけです。毎年、前年を検証の上、目標を再設定するまさにPDCA(計画、実行、修正、再実行)サイクルは効果が出るだろうと感心したものです。
 結婚というプロジェクトを通して、自ら望む人生を手にするには、夫婦や子どもも巻き込んで、早いうちからお互いビジョンを話し合い、そのフィードバック受け入れるような仕組みをつくり続けることが大切なのです。