"私が子供の頃育った家はいまはもう存在しない
今私の生活している場所からは遠くにあった
私の記憶の中のその家は
くっきりと想起できる
私が何歳くらいの時、どんな感じでどの場所を歩いていたか、走っていたか、眠っていたか、
それなりに思い出すことができる
そして、いまはもうないことが現実の感覚として確認されることもないので
喪失の感覚からも免れている
今はもう無いのだけれども
遠く離れているものだから
無いことを確認することもない
そんな事情で、まるで今もあるかのように思い出すことができる
このあたりも不思議なものだと思う
玄関から真っ直ぐ伸びる廊下は
居間とトイレを結ぶ廊下でもあったのだが
私は一体何度その廊下を歩いたことだろう
よく滑る材質だったので途中は滑ったりもしていた
たとえばそれが私の人生の一部分であった
"