ここ数カ月、不動産にまつわる本が書店に増えてきた。しかも、どれも内容はお先真っ暗の市場の未来だ。 『2020年マンション大崩壊』(牧野知弘/文春新書)は、不動産開発・運用アドバイザーによるもので、少子高齢化と供給過剰が原因となって空き家問題は2020年東京オリンピックのフィナーレとともに暴発するという。 『あなたの不動産が「負動産」になる』(吉田太一/ポプラ新書)は、遺品整理屋兼不動産業者である著者が、「数年前まで『売れない不動産はない』と言い切っていた不動産屋も、『売れない物はいくら値段を下げても売れ

 ここ数カ月、不動産にまつわる本が書店に増えてきた。しかも、どれも内容はお先真っ暗の市場の未来だ。
『2020年マンション大崩壊』(牧野知弘/文春新書)は、不動産開発・運用アドバイザーによるもので、少子高齢化と供給過剰が原因となって空き家問題は2020年東京オリンピックのフィナーレとともに暴発するという。
『あなたの不動産が「負動産」になる』(吉田太一/ポプラ新書)は、遺品整理屋兼不動産業者である著者が、「数年前まで『売れない不動産はない』と言い切っていた不動産屋も、『売れない物はいくら値段を下げても売れない』と言うように変わってきた」と業界の変化を指摘し、相続した不動産が「負の遺産」になりかねないと警鐘を鳴らしている。
 両者が象徴的に取り上げるのが、部屋の大きさに関係なく10万円均一で売られている新潟県・苗場スキー場近隣の築25年のリゾートマンションだ。
 地元業者は次のように語っている。
「10万円? それはいくらでもいいということ。一応価格つけないとね。売り物なんだから。でもね、何万円でもいいけどさ、買う場合には売主が滞納している管理費分も100万円以上あるケースが多いですよ。最近は固定資産税だって滞納が出てきています。そっちを負担してくれれば、売主は喜んで売ってくれると思いますよ」(『2020年マンション大崩壊』より)
「リゾートマンションや別荘を所有することは、それをステータスだと考える人以外にとっては、もはや魅力あるものではなくなってしまった」(『あなたの不動産が「負動産」になる』より)
都心のワンルームマンション購入はハイリスク
 リゾートマンションや郊外の住宅だけでなく、負動産のババ抜きゲームは都心のワンルームマンションにも広がっている。ワンルームマンションといえば、借り手側は学生や独身サラリーマン。都心に多く手堅い人気だ。何をかくそう筆者も、ここ数年はワンルームマンション住まいだが、職場にも歩いていけるし設備は最新のものばかりで快適。ほぼ満室状態が続いている理由もわかる。
 投資家にとっては手ごろな資産形成手段として売買されている。投資家は購入したワンルームマンションを減価償却して、経費計上が可能だ。経費で所得を圧縮して税金を減らすことができる。さらに毎月の家賃収入でローンを完済し、その後の家賃収入は、投資家が年金生活に入ってからの不労所得になるというわけだ。
「しかし、じゅうぶんに物件や地域を精査してから購入しないと、募集しても入居者が入らず空室状態が続き、収益が全く上がらなくなるかもしれません。(略)ここ数年でオーナーになった人の中には、すでにババ抜きゲームにはまっている人もいます。予定していた額の家賃では入居者がつかず、やむなく家賃を下げ、計画を大幅に延期して回収せざるをえない物件もあります。(略)これからは不動産で儲けようとすること自体、基本的に難しい時代です」(同)
 また、ワンルームマンションは設備競争が激しいのだという。
「住宅設備が最新。少ない需要を取り込むために必要な装備はすべて整っています。(略)トイレはバス、洗面とは別。浴室乾燥機、食器洗い機、床暖房など最近のワンルームマンションは至れり尽くせりです。共用部はアマゾンなどの宅配物を受け取れるロッカーを設置。女性が気にするセキュリティもばっちりです。(略)築年数の経過したワンルームマンションに空き住戸が増えていくという構図です。賃借人が見つからない、あるいは初期の節税目的をある程度達成してしまったオーナーは住戸を売却しようとしますが、需要のないワンルームを買うお客さんはいないのです」(『2020年マンション大崩壊』より)
中古ワンルームマンションは仲介業者も避ける
『不動産裏物語』(佐々木亮/文春文庫)は、匿名不動産仲介業者による不動産業界の暴露ものだが、中古のワンルームマンションは買い手もいなければ、仲介業者も仲介したがらないという実情を報じている。
「『1000万円のワンルームを売ってください』というお客さんが来ても、仲介手数料を考えたら物件価格の3%だけで考えると、実入りは30万円。(略)30万円のために積極的に動くという業者はなかなかいないため、媒介業者は不動産取引情報提供サイト(REINS)に情報を掲載して放置」(『不動産裏物語』より)するために、市場に中古ワンルームマンションがあふれるのだ。
 さらに、投資用ワンルームマンションのローンは住宅ローンではないために提携金融機関がなく、買い手は現金を用意しないといけない。
「ワンルームマンションの分譲会社はノンバンク系のローン会社と提携していることが多いため、新築を購入するときはローンが組める。しかし、一般的な不動産業者はノンバンク系のローン会社と提携しておらず、いきなり案件を持ち込んでも相手にしてもらえない。したがって、中古ワンルームマンションはローン付けができず、現金を持っているお客さんにしか売れないという状況になっている」(同)
「ワンルームマンションは資産となるから、いざというときは売ればいい」といったセールストークが繰り広げられるが、中古マンションは一般的なルートで売りようがないのが現実なのだ。