“内田 まだ三十ちょっとの若い女の子がですよ。その子が七十歳過ぎて不動産屋さんに行って入居を断られる場面を想像して、それに怯えてローンを組んでマンション買うんですよ。それって想像力が豊かなんじゃなくて、想像力が貧困だということでしょう。第一、その歳まで生きることを当たり前だと考えているところがけしからんじゃないですか(笑)。三十年も経てば、世間の状況だって変わるに決まってるし。
春日 そうなんですよね。
内田 でもね、もっと怖いのは、そうやって三十五年ローンでマンションを買った以上は、自分の選択が正しかったということを自分で自分に証明しなくちゃいけないという無意識の圧力の方なんです。だって、無理して大きな買い物したわけですから。あとで「あのときローンを組んで正解だった」ということにならないと困るんですよ。となると、自分の判断が正しかったことを証明するためには、彼女、結婚するわけにはゆかない。”