農村共同体や会社共同体が崩壊したあと何があるのか

"政治の右傾化の背景には、農村共同体や会社共同体が崩壊し、経済成長神話も失われた今日、帰属集団を失った人々の間で国や政府、伝統といったものが唯一の「頼れる対象」になっているという面があることは否定できない。しかし、そうした不安につけ込むような形で、日本会議のような、不安を煽り、復古主義的な価値の復活を目論む政治運動が盛り上がりを見せていることも事実だ。

 米・モンタナ州立大学准教授で、フェミニストの立場から日本会議の研究を続けている山口智美氏によると、日本会議は現在、神社本庁を中心とする多くの宗教団体を傘下に抱え、日本の保守運動を統合するような立場にあるといってもいいという。その構成員は人数的には決して多くはないが、報道などによると安倍首相をはじめ、麻生財務相、有村行革担当相ら安倍内閣の多くの閣僚が日本会議国会議員懇談会のメンバーであったり、日本会議からの支援を受けているという。前々回の番組で自民党内で唯一集団的自衛権の行使に反対をしている村上誠一郎衆院議員が指摘する「自民党の保守化、右傾化」の背景に日本会議の存在と、安倍政権と日本会議の近い関係があることはまちがいないと、山口氏は言う。
 そして、こうした日本の保守運動が盛り上がるきっかけとなったできごとが、従軍慰安婦問題と夫婦別姓問題だったと山口氏は指摘する。1996年に当時の法制審議会が選択的夫婦別姓を含む民法改正の提言をまとめた際、これに強い危機感を抱いた保守層が、当時勢いを増していた日本のフェミニズム運動に対する「バックラッシュ」と呼ばれる反撃を開始したことが、一連の保守運動の源泉になっていると山口氏は解説する。
 その背景にあるのは「男女共同参画」の名で始まった女性の社会進出が、保守層の危機感に火をつけた側面があるという。保守派にとって美しい日本と幸せな家族像は一体であり、夫婦別姓もそれを破壊する一因と考えられているのだ。
 とはいえ現在導入が検討されている夫婦別姓案は、あくまで選択的別姓という、別姓を希望する人はそれを選べるというものであり、結婚したすべての人が別姓になるわけではない。また、既に家制度や家父長制度が存在しない今、姓が異なるだけで結婚が破壊されるという考え方はやや極論にも思えるし、別姓になると離婚がより容易になるので好ましくない、という主張にいたっては、実際は別れたいが、姓の変更が大変なので嫌々でも婚姻関係を続けることを強いられることを肯定していると受け取ることもでき、かなり無理がある。

 その一方で、現行の夫婦同姓制度は96%が妻が夫の姓に合わせていることから、事実上、女性が姓を変えることを強いる制度となっている。これはキャリアを積んできた女性にとっては社会的に不利になるばかりか、生まれたときに親から授かった姓名という自身のアイデンティティにも関わる重大な問題でもある。"

"「政治の右傾化の背景には、農村共同体や会社共同体が崩壊し、経済成長神話も失われた今日、帰属集団を失った人々の間で国や政府、伝統といったものが唯一の「頼れる対象」になっているという面があることは否定できない。」という部分は疑問である。地縁血縁共同体が崩壊した後で、ネットの中に、孤独な人々の共同体が形成されるが、その部分については政治は意見として拾い上げることができていない。たぶん、ほぼどのような少数意見も、ネットの中では仲間を見つけることができるだろう。しかしそれが人格を支える共同体となり得ているわけではない。"

"組合運動などが下火になり、適正な分配を求める社会的運動がなくなっていることが、新自由主義的運動を加速しており、一方で、グローバル資本主義がアメリカ流の分配をしない資本者気を後押ししている。中流層が分解したことで自分たちの立場を力に変換できない下層階級の人々が増えた。政治と切れてしまった人たちである。"