川内原発の再稼働が目前に迫っても、再稼働の判断責任が最終的にどこにあるのか明確ではない。安全性を審査する原子力規制委員会は「再稼働の判断には立ち入らない」と明言する一方、政府側は「規制委で安全性が確認されれば地元了解の上で原発の運転を順次再開していく」と説明し、判断責任を事業者に押し付ける。困っているのは地元自治体で、政府の関与の明確化を求める動きが強まっている。
規制委の田中俊一委員長は5日の記者会見で、再稼働の判断主体を問われると「規制委が判断しなければいけない理由は何もない。ただ、再稼働して大きな事故を起こさないかどうかという意味での審査はきちっとした」と述べた。規制委は発足当初、「再稼働判断は事業者と経済産業省が担当すべきだ」との共通見解をまとめている。
規制委は技術的な専門家集団であり、再稼働を前提とした審査との印象を与えてしまうと、これまでの規制機関と何ら変わらないため、再稼働の可否判断は別だという考えだ。
これに対し、宮沢洋一経産相は4日の会見で「規制委が厳しい基準に適合しているかを判断した。まさに事業者が最終判断をして、再稼働に至る法制度だ」と事業者に判断責任があるとの考えを示した上で、「政治判断の余地はない」と強調した。
東京電力福島第1原発事故後、平成24年7月に関西電力大飯原発3、4号機(福井県)が再稼働した際は「政治判断」だった。当時は民主党政権下で野田佳彦首相(当時)が「国民生活などへの影響を勘案し、政府が最終的に責任を持って判断する」と述べ、関係閣僚会議を開いて政治決断を下した。
しかし現在、国策である原発の推進について、政府が関与しないことに地元自治体は納得がいかない。結局、再稼働に対する「地元の同意」が最も重い決断となってしまうからだ。
川内原発の地元である鹿児島県の伊藤祐一郎知事は、地元同意の前に国の責任を明確化した文書を政府に要請した経緯がある。全国知事会も再稼働の条件として、国の責任と手順の明確化を盛り込んだ提言をまとめた。同じく新基準に7月に合格した伊方原発のある愛媛県の中村時広知事も「事故が起こったときの最終責任は誰が取るのかということを明確化する必要がある」と訴えている。