採録
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「あなたはストレスを感じていますか?」
この質問に「いいえ」と答える人は極めて少ないだろう。回りを見渡してみればストレスの原因はいくらでもある。口を開けば小言ばかりの上司、いつまで経っても頼りない部下、いきなり無理難題を要求してくるクライアント、臭くて暑い満員電車…などなど一歩外に出ればストレスの宝庫と言っても過言ではない。
家の中だって安らぎの場とは言い切れない。配偶者の冷たい態度や子供の些細な一言にイラッとすることなど日常茶飯事。オレ(ワタシ)の人生はストレスだらけと嘆く人も少なくないはずだ。ただ、ストレスの一番の原因は自分だったりする。
軽度のストレスなら気の合う仲間と美味しいものを食べたり、スポーツで汗を流したりすることで発散できる。ただ、鬱病などのメンタル不調を訴える人は明らかに増加しており、今や10人に1人は鬱病もしくはその予備軍とも言われている。
過度なストレスが最悪の事態を招くこともある。内閣府によると、日本国内で自殺する人は2013年に2万7283人だった(確定値)。ピークだった2009年(3万2845人)から徐々に減ってきているとは言え、依然として高い水準にあることは間違いない。
こうした状況を鑑みて、企業におけるメンタルヘルス対策を強化するため「労働安全衛生法の一部を改正する法案」が2014年6月に国会で可決・成立した。昨今、社員を過酷な労働環境で働かせる「ブラック企業」が社会問題になっていることも法改正を後押しした。
この法改正によって、今年12月から従業員50人以上のすべての事業所は1年に1度、従業員のストレス状態を把握するため「ストレスチェック」と呼ぶテストを実施する義務を負うことになった。50人以下の事業所でも努力目標となっている。正社員だけでなく、1年以上雇用が見込まれている契約社員やパートなども対象となる。
健康診断と同様に事業者は従業員にストレスチェックを受けさせる義務を負うが、受けるかどうかは従業員の判断に委ねられている。
では、ストレスチェックとは一体どんなものなのだろうか。ストレスチェックを受けてみた。
「非常にたくさんの仕事をしなければならない」「自分のペースで仕事ができる」「(最近1カ月の間に)ひどく疲れた」…
質問に対して、「そうだ」「まあそうだ」「やや違う」「違う」の4つから自分に当てはまる選択肢を選んでいく。約15分かけて全100問の質問に答えると、自分のストレス状態が判定できる。なお、厚生労働省が示す標準的な質問項目は57問で、残りの43問はストレス耐性度などを評価するために独自に設定した質問だ。
私の結果は「良好」だった。コメント欄には「あなたは、この1カ月、職場やプライベートでのストレス原因がやや多い傾向がみられました。しかし、強いストレス反応は感じていないようです」と書かれている。その他にも、(心の)元気度、タフネス度、ストレス原因、周囲からのサポートなど、項目ごとに4段階の評価が示された。
結果を見てうなずけるところもあったが、そうでないところもある。記者という仕事柄、毎日のように何らかの〆切に追われている。自分としては強いストレスを感じて生活しているつもりだったが、客観的に見て私のストレス状態は悪くないことが分かった。「なんだ、オレなんか大したことがないんだ」と認識できただけでも、私にとっては新しい発見だった。
ただ、気になる点もある。私のように結果が良かったら問題はないが、悪かった場合に会社に知られたくないと感じる人は少なくないはずだ。全体の10%程度はカウンセラーが接触すべき人と判定されるという。専門医による治療が必要なほど重篤な人は躊躇なくそうすべきだが、精神科に通っていることを他人に知られたくはないだろう。もしかしたら家族にだって、知って欲しくない人もいるかもしれない。
この点は法改正の課程でも議論されていて、本人が望まない限りストレスチェックの結果は会社側に知られることはない。通常の健康診断は社員と会社の双方に結果が通知されるが、よりデリケートな問題を扱っているだけに労働者の不利にならないように配慮されている。
ストレスチェックの結果は本人以外に通知されないと書いたが、メンタルヘルス不調者やその予備軍の割合が部署ごとにどうなっているかという分析結果は会社側に報告される。仮にある部署でメンタルヘルスの不調者が多く、その原因が所属長の威圧的な言動と分かれば、その所属長に対してハラスメントの研修を受けさせるなどの対策も打てる。今回の法改正の趣旨は、企業に対して労働環境の改善努力を促す点にある。
つまり企業にとって、今回のストレスチェック義務化はコストの増加要因となる。従業員にストレスチェックを受けさせ、必要があればカウンセリングの費用も発生する。原因が特定されれば、労働時間の短縮や研修を実施するなど具体的な対策も取らなければならない(費用については後述)。
ただ、目先のコスト増よりも中長期的なメリットを重視すべきではないか。自社の社員が突然、職場から離脱するデメリットは計り知れない。一般的な疾病と同様に、メンタルヘルスの不調も初期に適切な対処をすれば回復しやすいことも分かっている。何よりも社員が生き生きと働いていなければ、より良い製品やサービスを顧客に提供できるはずがない。
こうした考えに基づき、メンタルヘルスケアの充実に取り組んでいる企業は既にいくつかある。その中の1社がスカイネットアジア航空だ(ブランド名は「ソラシドエア」)。航空業界は人の命を預かるだけに極めて高いプレッシャーにさらされており、コスト競争も厳しい。とてもストレスが高い職場だと言える。
ソラシドエアの職種の中でも最もストレスが高いのは、利用客と直接関わる客室乗務員(CA)と地上旅客係員だ。いわゆる高ストレスと判定される従業員の割合は12~13%で、産業界の平均の10%より高かった。心の病を理由に休業(1~2カ月の欠勤)する人もいて、人事部が復職のためのサポートをしていた。そうした経緯もあり、2012年からメンタルヘルス対策プログラムを導入した。
ストレスチェックの受診率は1年目の2012年秋は70%以下にとどまり、2年目は更に低くなった。3年目となった2014年秋は用紙を紙に印刷して配るなど工夫した。CAは1人に1台パソコンが支給されているわけではないため、誰でもテストを受けやすくするためだ。その結果、2014年秋は全体の受診率は73%に向上し、中でもCAの受診率は85%にまで高まった。同社はあくまで従業員の自由意志での受診を促しており、強制はしていない。人事部の須賀雄樹課長は「管理が目的ではなく、あくまでも本人の気づきを重視している」と理由を語る。
ストレスの原因が職場以外の場合もあり、会社側の対策は限られている。それでもストレスに強い人をより多く育てるため、従業員の心のタフネス度を引き上げるための研修にも取り組み始めている。
カウンセリングを受けやすい環境作りにも腐心している。実際にカウンセリングを受けた社員の体験記を社内のイントラネットに掲載し、どのような雰囲気でカウンセリングを受けたのかなどを分かりやすく示した。この体験記を載せた後、カウンセリングの受診数が月平均1~2回から5~6回に向上したという。
メンタルヘルス対策を導入してからメンタルな理由で休業する人の割合は半減しており、既に効果は出始めている。人事部の須賀課長は「メンタルヘルスケアを予防としてだけでなく、従業員と組織の活性化につなげていきたい」と意気込む。
「ストレスチェックを導入して2~3年もすれば、従業員も会社も慣れてきて組織ごとの傾向も見えてくる。そうすれば効果的な対策も打てる」。
メンタル不調などの傷病による欠勤及び休職者の休業日数は、本格的な取り組みを開始した2009年度に比べ、2013年度には40%以上も削減できたという。
あと1年もすれば、あなたの職場にもストレスチェックがやって来る。テストを受けるのが面倒くさい人や新たなコスト増に頭を悩ます企業もあるだろうが、まずは職場環境の改善に生かしてもらいたい。ーーーーー
ストレスチェックの会社を始めて、
会社でのメンタル研修を請け負ったりとか、
そういう人もいるのだが
そしてそういうことをやらせてほしいという人もいるのだが
さてさて
2015-07-10 00:19