「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番」――そんな発言が、安倍晋三首相に近い自民党議員でつくる勉強会で出たと聞いて、1995年1月の阪神淡路大震災直後に起きた「マルコポーロ事件」を思い出した。 広告ボイコットは効く 発端は、文藝春秋社が発行していた月刊誌『マルコポーロ』2月号に掲載された「ナチ『ガス室』はなかった」と題する記事だった。巷に転がっているホロコーストを否定したり矮小化する文献や資料を切り貼りしたもので、ユダヤ人大量虐殺は作り話などとする内容だった。これに憤慨した米国のユダ

"「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番」――そんな発言が、安倍晋三首相に近い自民党議員でつくる勉強会で出たと聞いて、1995年1月の阪神淡路大震災直後に起きた「マルコポーロ事件」を思い出した。
広告ボイコットは効く
発端は、文藝春秋社が発行していた月刊誌『マルコポーロ』2月号に掲載された「ナチ『ガス室』はなかった」と題する記事だった。巷に転がっているホロコーストを否定したり矮小化する文献や資料を切り貼りしたもので、ユダヤ人大量虐殺は作り話などとする内容だった。これに憤慨した米国のユダヤ人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」(SWC)が、駐米大使などに抗議をする一方、大手企業に同誌への広告出稿を取りやめるよう働きかけた。
SWCは、同誌に対しては直接抗議せず、反論掲載などの同誌からの交渉申し入れにも一切取り合わなかった。同誌が発売されたのは1月17日だが、同月19日には広告ボイコット要請を行う素早さだった。フォルクスワーゲン、カルティエジャパン、マイクロソフト、フォリップモリス、三菱自動車や三菱電機などが、広告拒否を表明。カルティエのように、『マルコ』一誌だけでなく、文藝春秋社のすべての雑誌から広告撤退を決めた社もあった。
決着がつくのは早かった。文藝春秋社は、同月27日には同誌の廃刊を決め、渡米した担当者がSWC側に謝罪。30日には廃刊を正式に社内外に伝えている。その後、社長が引責辞任した。
確かに、同誌がろくな裏付けもとらず、安易に歴史的事実を否定する記事を出したことは、大いに問題だった。だが、言論の自由を重んじる社会では、言論には言論で対抗するのが、原則だろう。自由な議論の中で、事実に反する見解や陰謀史観の類いは淘汰されたり、人々に信頼されなくなっていく。
ところがSWCは、ひたすら広告ボイコットという実力行使で、相手を威圧し、一つのメディアを消滅させた。同時の文藝春秋社社長は、記者会見において、「広告ボイコットがなくても、国際社会に与えた影響を考えた廃刊した」と述べたが、それを真に受けた人はいないだろう。
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SWCは、その効果の程を実感したのだろう。1999年に「ユダヤ資本」を取り沙汰する『週刊ポスト』に抗議する時にも、広告ボイコット作戦を使った。その後は、もはや実際に広告ボイコットの呼びかけを行う必要すらなくなった。SWCに問題にされたメディアは、すぐに白旗を揚げるからだ。実際、番組でのコメンテーターの発言や書籍広告をSWCから問題にされたテレビ朝日、産経新聞などは、抗議を受けるや、すぐに放送や紙面で謝罪を行っている。
それほど、広告ボイコットは効くのである。"