韓国ドラマ(2016)「モンスター~その愛と復讐~」 力作。

韓国ドラマ(2016)「モンスター~その愛と復讐~」
力作。
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韓国サムスングループが2017-3月1日付で、これまでグループのコントロールタワーとして君臨してきた「未来戦略室」を解体した。前身のサムスン物産秘書室が設置されてから58年間。未来戦略室の解体は、事実上のグループ体制の解体を意味する。サムスン関係者は「グループレベルで行われてきたすべての業務を終了させる」と説明する。未来戦略室を陣頭指揮してきたサムスンのナンバー2である崔志成(チェ・ジソン)副会長も辞任した。未来戦略室の解体は何を意味するのか。そして、サムスンの次の一手は、どうなるのか。
サムスンが2月28日付で未来戦略室の解体を公式に発表すると、韓国財界は一斉に困惑の表情を見せた。実は解体は予見されていたことだった。サムスン電子の事実上トップである李在鎔(イ・ジェヨン)副会長(2月28に起訴)は、昨年12月、朴槿恵(パク・クネ)大統領(3月10日に罷免)が深く関わった国政不正介入事件に関する国会聴聞会で、未来戦略室の解体を約束していた。その後、李副会長が同事件における贈賄容疑で逮捕されたため、未来戦略室を当面存続させ、特別検察による捜査への対応に注力するという雰囲気だった。
旧時代的な経営からの脱皮目指す
だが、予想よりも早い解体宣言は、財界に動揺を与えざるを得なかった。主要企業はサムスンの動きを鋭意注視しながらも、検察の今後の対応などを見守る立場だ。経済団体は公式的な発表を自制したまま、財界全般に与える影響を分析中である。一方、サムスンの改革を要求していた市民団体などは、さっそくこれまでとは違った主張を口にし始めた。
韓国財界の”長男”といえるサムスン。その司令塔である未来戦略室の解体は、そのまま財閥改革という意味を持つ。同室はグループ全般の業務に関与し、オーナー一家の手足のように機能しているとの批判をつねに受け続けてきた。特に政府や国会を相手にロビー活動を行ってきたため、政経癒着の張本人として指摘され続けてきた。
今回、未来戦略室を解体したことで、オーナー一家中心の旧時代的な財閥経営から脱皮し、専門経営者らを中心とする企業へ変貌するという強い意志を、サムスン側は見せたとも取れる。サムスン関係者は「未来戦略室の解体はグループ内54社が自律的に経営する体制へと転換することを意味する」と説明する。オーナーによる経営判断への依存度を下げるということだ。延世大学経済部のシン・ヒョンアン教授は「グループ会社別により迅速に判断すべき時代が来た。急変する経営環境にサムスンも勝負を挑むということ」と見ている。
ただ、今回の動きを財閥解体への動きと見るのは時期尚早であり、慎重に見守るべきという見方が多い。高麗大学経済学部のシン・グアンホ教授は3月2日、韓国経済学会のセミナーにおいて「韓国財閥の急激な解体は現実的に難しい。財閥は、生産の多くの部分を占める主体であり、革新の主体。財閥体制が持つ副作用を最小化する制度的な整備が必要だ」と述べた。
未来戦略室の解体が財閥改革への信号弾となってほしいと期待する各界各層は、今回の動きを歓迎しているが、それでも一過性の措置で終わってはいけないと強調する。野党・国民の党は「未来戦略室の解体は当然のこと。サムスンだけでなく、ほかの財閥のオーナー一家にとって、私的な利益のためにグループ内に組織を置いて運営するという、誤った慣行を終わらせる契機とすべきだ」と発表した。
本当の自律経営は可能か疑われる
財閥を監視し続けてきた市民団体は、サムスンの今回の決定に同意できずにいる。そんな市民団体の一つ、経済改革連帯は論評を発表し、「未来戦略室の解体は正解ではない。解体宣言は姑息な動きだ」と述べた。解体がコントロールタワーとしての機能を完全になくすという意味ではなく、その機能を分けて主要企業へ移転するにすぎないという解釈だ。経済改革連帯は、サムスン電子とサムスン物産、サムスン生命で未来戦略室が持っていた役割を分割するだろうと予測する。これまでの未来戦略室の問題、すなわち”法的実体”がないため、権限と責任が乖離し、その結果、オーナー一家とその番頭らの私益のために無理を重ねる、あるいは違法行為まで行うといった問題が、グループ各社を通じて繰り返されるのではないかという論理である。
経済改革連帯のキム・サンジョ所長は「サムスン電子は、サムスンSDIとサムスン電機などから資材を受け入れる垂直的な体制で、経済優位を占める企業だ。これらグループ会社が何ら調整もなく、自律経営を行うことは想像できない」と指摘する。キム所長はまた「むしろ、コントロールタワーを隠すことなく透明にすべきであり、コントロールタワーが判断する内容を各グループ会社が自律的に検討・修正・承認する合理的な手続きを構築し、社会的信頼を確保すべきだ」と言う。
サムスンが取締役会における純血主義から抜け出すべきとの指摘も出てきた。支配株主と内部の経営陣が選んだ社外取締役で構成された、各グループ会社の取締役会で下した自律的な判断は、信頼するには難しく、外部の株主が推薦する独立的な社外取締役を受け入れるべき、というものだ。
未来戦略室の場合、サムスンが本格的な成長軌道に乗り始めた1970年代から、グループが進むべき方向性を提示する経営の中心的機能を果たしてきた。財界関係者は「1997年のアジア通貨危機、いわゆるIMF(国際通貨基金)危機以降、構造調整本部がグループの新規事業発掘とブランド管理に関与して、サムスンがいまのようなグローバル企業へと成長させた」と説明する。
司令塔不在でグループのシナジー減退も
未来戦略室が解体され、サムスングループはバラバラになる恐れも(写真:中央日報エコノミスト)
未来戦略室の解体が、これまでなかったような業務上の問題と混乱を引き起こすのでは、と憂慮する声が出ているのはこのためだ。各グループ会社にとっては、グループという庇護の下で享受してきたシナジー効果が期待できなくなった。グループ内で重複する事業を整理する作業も困難を極めそう。延世大学経済学部のソン・テユン教授は「グループ会社間の事業調整のためにはコントロールタワーが必要。解体だけが回答ではなく株主らの理解に反する方向へ動かないようにするのが重要だ」と語る。
経営状態が悪いグループ会社の事業整理も難航しそう。経営難で構造調整を実施、あるいは実施中のサムスン重工業とサムスンエンジニアリング、サムスンカードなどは今後、グループレベルでの支援を期待できなくなり、自助努力への道を進まざるを得ない。このほかにも、グループ会社別で新入社員を採用すれば、採用枠が大きく縮小する可能性がある。雇用創出で韓国経済にこれまで寄与してきた部分も現在ほどには期待できなくなる。社会貢献活動にも影響を与えそうだ。
未来戦略室に所属する社員は、コントロールタワーらしく、グループの主要人材で構成されていた。グループナンバー2だった崔室長(グループ副会長)など首脳9人がこぞって退陣した後をどう埋めるのかという課題も出てきた。
これにはまず、グループ内では最も独自的な存在であるサムスン電子側の人間が、グループ内での中枢的な役割を果たすようになるだろう。代表的な経営者が、サムスン電子の権五鉉(クォオ・オヒョン)副会長だ。崔副会長の辞任後、権副会長はサムスン内の全企業を見渡しながら、李副会長とともに二人三脚で副会長の職責を担う役員として浮上した。
サムスン電子がグループの司令塔役割に
取締役会議長でもある権副会長は崔副会長からバトンを受け継ぎ、ナンバー2としての役割を果たしつつ、自ずとリーダー不在による空白を埋めることができる人物だとされている。実際にサムスン電子は3月3日、権副会長の直属組織として「グローバル品質革新室」を新設し、サムスン重工業の金鍾鎬(キム・ジョンホ)社長を室長に据えた。金社長はサムスン電子出身だ。サムスンSDIも2月28日の取締役会で、サムスン電子メモリー事業部長の全永鉉(チョン・ヨンヒョン)氏を社長に内定した。
サムスンの別の主軸であるサムスン物産とサムスン生命の最高経営者にとっても役割が拡大しそうだ。サムスン物産は崔治勳(チェ・チフン)氏が、サムスン生命は金彰洙(キム・チャンス)氏が、それぞれ社長となっている。この二人を中心としてサムスンはグループ会社別に代表取締役と取締役会中心の自律経営体制へ本格的に転換するものと思われる。
これまでのサムスンの経営が、オーナー→未来戦略室→グループ各社という垂直的な体制だったとすれば、今後は透明性を追求するグループ各社の取締役会を中心に、水平的な体制へと変わりそうだ。オーナーがあれこれ仕切ってきた韓国的財閥経営が、根本的に変化するきっかけとなるかが、注目される理由である。
では、サムスンの競争力維持に、今回の解体がどのような影響を与えるか。特にグローバル市場において、サムスンブランドの核となっているIT事業と、最近サムスンが野心を燃やしながら推進しているバイオなど新規事業の先行きに、関心が高まっている。グループ会社別の自律経営体制には3つの大きな中心軸、すなわちサムスン電子とサムスン生命、サムスン物産を中心に、各企業の社長団が緊密な関係を保ち、協議・調整していくとの観測が出始めた。ただサムスン側は公式的にはこれを否認している。
この観測通りであれば、IT系のグループ会社はサムスン電子、バイオ事業ではサムスン物産が中心となり、事業の細かな方向性を決めていくことになる。このような形での経営が企業の競争力を弱める可能性もあるかどうかが問題だ。また、こんなシナリオが出てくること自体、グループ会社別の自律経営が現実的ではないという反証にもなる。
バイオなど新規事業で先行き不安も
財界関係者は「サムスンのスピードある市場対応力と適応力は海外でも手本となっている。コントロールタワーが消えると、長所が短所に変わるかもしれない」と心配している。長期的に見てM&Aといった施策にも支障を来すこともありうる。
ハンファ投資証券のイ・サンウォン研究員は、「サムスン重工業やサムスンエンジニアリングが経営難に陥るなど、グループ内の立場が不安定な一部グループ会社は別として、これまでのサムスンは、専門経営者による経営体制をとることによって、競争力がしっかりと維持されてきたのは確か。自律経営になっても、今後も大きな問題はないと思う」と言う。
ハイ投資証券のイ・サンホン研究員も「サムスン電子はシステム的に動く組織。IT事業の持つグローバルな競争力はそのまま維持され、悪影響はさほどないだろう」と見る。ただ、バイオや製薬を担当する証券関係者は「バイオ事業はサムスンの新規事業であるだけに、投資とその目標設定には果敢な決断も必要だ。だが自律経営がどこまで効率的に行えるかは疑問だ。否定的な影響を生じることもある」と打ち明ける。
未来戦略室の解体は、これと同様な組織を置いて経営している、他の財閥企業にも問題を与えている。韓国10大財閥グループのうち、ハンファの「経営企画室」はグループ全体の方向性を提示し、サムスンの未来戦略室と似た組織として取りあげられる。2015年にサムスンから防衛事業と化学事業など4社を買収したときも、経営企画室が重要な役割を果たしたとされている。
ロッテの「経営革新室」もグループの共同戦略を立案する中心的な役割を果たしている。SKやLG、POSCO、新世界なども、同様な組織を置いている。ただ、SKは専門経営者中心の組織を置き、LGは2003年から持ち株会社体制に移行しているなど、それぞれの差もあり、一律的な判断がしにくい。
ロビー活動は徐々に減少していく
これらグループは、サムスンのように「コントロールタワーを解体せよ」という世論の厳しい声が高まるのではないかと心配しながら、事態の動きを注視している。また、サムスンはほかの企業からベンチマークの対象とされていたため、他企業も今後は自律経営体制の導入を拡大させるのではないかとの見方が一部から出ている。ロビー活動は政経癒着で、それを根絶するため、これまでより大幅に減るだろう。10大グループのある関係者は「まだ決定されたことはない」としながらも、「ロビー活動は徐々に減らしていくのが正しいのではないかという話が注意深く出始めた」と打ち明ける。
企業の支配構造には正解がない。前出した市民団体の経済改革連帯も、「グローバルスタンダードといっても、それにかなう法制度も、現実的な慣行も存在しているわけではない」とする。サムスンはこれまで、サムスン電子とサムスン生命の2社を中心に、それぞれが持ち株会社をつくって企業の支配構造に対する正解を求めようと動いてきた。
とはいえ、李副会長が逮捕され刑事裁判を待っている状況で、持ち株会社を通じた支配構造と経営権の継承という問題を解決するには、当分時間がかかりそうだ。経済改革連帯は「多くのグループ会社の分割と合併を必要とする持ち株会社への転換は、サムスン物産と第一毛織の合併よりもはるかに難しい。そのため、サムスングループと李副会長が社会的信頼を回復する前には、持ち株会社化への動きはしづらい」と見ている。