抽象と具体の間を自由に行ったり来たり

法律を学ぶということは、イメージの修得だといってもいいくらいです。英語を勉強するときに「APPLEはリンゴだよ」と教わればすぐにイメージできます。それはわれわれがリンゴをみたことがあって知っているからです。しかし、民法をまったく知らなければ「危険負担は双務契約において問題となる」と言われてもさっぱりわからないでしょう。法律がわかるようになるというのは、危険負担といわれたら、「ああ、あの場面のあのことだな」とピンとくるようにすることなのです。
結局、民法の勉強は、抽象的な条文や制度をみたときに具体例が思い浮かべられるようにする、と同時に具体的な事例をみたときに条文や制度をみつけることができる。つまり、この抽象と具体の間を自由に行ったり来たりできるようになることが目標です。
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法曹実務では、罪数のところが大事なポイントとなります。たとえば、被害者に向かってピストルを撃って被害者が死んでしまったという単純な殺人罪1つを例にとってみても、分析的・理論的に考えるとその中にはいろいろな犯罪が成立していることがわかります。
具体的には銃を準備した段階で一応殺人予備、狙いをつけた時点で殺人未遂、銃口から飛び出した弾が被害者のかたわらまで近づいて来てあぶないという状況になると暴行罪、そして服に穴を開けた時点で器物損壊罪、そして体に触った時点で傷害罪、そして人の命がなくなった時点で殺人既遂ということになります。1発、バンと撃っただけで殺人予備、殺人未遂、暴行、傷害、器物損壊、殺人既遂、それだけ成立しています。しかし、通常それは殺人既遂の1罪で終わってしまいます。